農地を売る2つの方法|農地のままと転用してから

農地を売る道は2本しかない。農地のまま売るか、転用してから売るかになる。
どちらを選べるかは持ち主ではなく農地の区分が決めていて、価格は公表値で10倍前後まで開く。岩手県の令和6年調査では耕作目的の中田が10アール約57万円、住宅用への転用目的が同じ換算で約750万円だった(2026年7月31日確認)。まず区分を確定させる。
この記事の目次
どちらを選べるかは、区分の側で先に決まっている
2つの方法は好みで選ぶものではない。農地のまま売れるかどうかは買い手の資格で決まり、転用して売れるかどうかは農地の区分で決まる。両方が閉じている土地も、片方だけ開いている土地もある。
| 農地のまま売る | 転用してから売る | |
|---|---|---|
| 根拠 | 農地法第3条の許可 | 農地法第5条の許可(市街化区域内は届出) |
| 許可する人 | 市町村の農業委員会 | 都道府県知事など(届出は農業委員会) |
| 買える人 | 耕作する人に限られる | 制限なし。ただし転用の計画が要る |
| 価格の水準 | 耕作目的の農地価格 | 転用目的の価格。地域差が大きい |
| 止まりやすい所 | 買い手が見つからない | 区分で申請自体ができない |
先に確定させるのは3つになる。農業振興地域の農用地区域内かどうか、都市計画法でどの区域にあるか、転用の立地基準でどの区分に当たるか。市町村の農業委員会と都市計画の担当課で聞けば分かる。
区分と許可の条件は農地転用とは?費用と期間、許可が下りる条件に整理してある。以下は、区分が分かったあとに何をどの順で決めるかの話になる。
方法1|農地のまま売る。買える人が法律で絞られている
農地を農地のまま売るには、農地法第3条による農業委員会の許可が要る。許可を受けないでした売買は効力が生じない。契約書を交わしても、代金を払っても、許可がなければ所有権は移らない。相続で取得した場合は許可ではなく農業委員会への届出になる(広島県・2026年7月31日確認)。
2023年に消えた条件と、残っている条件
かつては、取得後の耕作面積が一定以上にならないと許可できないという下限面積要件があった。これは令和5年(2023年)4月1日に廃止されている。前橋市の場合、廃止前は市内全域が40アール、空き家に付随する農地が1アールに設定されていた(前橋市・2026年7月31日確認)。面積が小さいから売れない、という説明は現在の制度には当たらない。
残っているのは、買う人の側の条件になる。
- 全部効率利用要件。取得する農地を含め、権利を持つ農地のすべてを効率的に利用して耕作すること
- 農作業常時従事要件。取得後に行う耕作に必要な農作業に常時従事すること
- 地域調和要件。周辺の農地の効率的な利用に支障を生じないこと
- 法人が取得する場合は、農地所有適格法人の要件を満たすこと
資産として持ちたい人、値上がりを待ちたい人、家庭菜園を少しやりたいだけの人は、この条件で外れることがある。買い手の母集団が耕作する人に限られる構造は、下限面積が消えたあとも変わっていない。
第3条の対象は売買だけではない。贈与、交換、貸借など耕作目的の権利移動が含まれる。近所の人にただで引き取ってもらう話も、許可なしには成立しない。
方法2|転用してから売る。買い手が決まらないと申請できない
宅地や資材置場などにして売る場合は、農地法第5条の許可が要る。審査は2段階で、農地の場所で判断する立地基準と、転用の確実性や周辺への被害防除を見る一般基準の両方を満たしたときに許可される(広島県・2026年7月31日確認)。市街化区域内の農地は、許可ではなく農業委員会への届出で足りる。
ここで多くの人が順番を間違える。第5条の許可は、農地を転用して使う人と、その使い方が決まっていないと申請できない。買い手も用途も決まっていない段階で先に宅地にしておく、という進め方は制度上できない。
実際に動く順序
- 区分を確認する。転用が認められる見込みがあるか農業委員会に照会する
- 買い手を探す。転用の目的と事業計画を持つ相手を見つける
- 売買契約を結ぶ。農地法第5条の許可を停止条件にする形が一般的になる
- 買い手と共同で第5条の許可を申請する(市街化区域は届出)
- 許可または受理の後に、所有権移転登記と地目変更登記を行う
造成や整地の費用は、この順序の外側にある。土地の形と接道で桁が決まるので、見積もりを先に集めても交渉では動かない。費用の目安は農地転用の費用にまとめてある。
許可を取らずに埋めたり資材を置いたりした状態のまま売りに出すと、そこで話が止まる。現況が地目と食い違っている場合は、売る前に農業委員会に見てもらう。止まる理由の整理は農地が売れない5つの理由にある。
価格差は何倍になるか。公表されている数字で見る
農地の価格は、耕作目的と転用目的で別々に調査され、別々に公表されている。同じ調査の中で両方が出ているので、差がそのまま読める。
岩手県・令和6年(調査時点は令和6年5月1日)
| 区分 | 公表値 | 10アール換算 |
|---|---|---|
| 耕作目的(線引きのない市町村・農用地区域内)中田 | 57万1千円/10アール | 約57万円 |
| 耕作目的 同 中畑 | 41万4千円/10アール | 約41万円 |
| 転用目的(線引きのない市町村)住宅用・田 | 2万4,893円/3.3平方メートル | 約750万円 |
| 転用目的(市街化区域)住宅用・田 | 6万2,646円/3.3平方メートル | 約1,900万円 |
耕作目的と住宅用の転用目的で、およそ13倍の開きになる。ただしこの報告書自体が、転用価格は実際の取引とサンプル数の変動を受けるので参考にとどめるよう断りを付けている(岩手県・2026年7月31日確認)。倍率をそのままあなたの土地に当てはめる材料ではない。
差が大きい地域と、小さい地域がある
静岡県の令和3年調査では、同じ市町の中でも区域によって差の付き方が変わっていた。
| 区域 | 耕作目的(中田・10アール) | 住宅用の転用目的(10アール換算) | おおよその倍率 |
|---|---|---|---|
| 市街化調整区域・農用地区域内 | 約616万円 | 約4,850万円 | 約8倍 |
| 市街化区域 | 約3,839万円 | 約7,280万円 | 約1.9倍 |
市街化区域の農地は、農地のままでも宅地に近い値が付いている。転用の手間をかけても増える幅は小さい。逆に市街化調整区域や線引きのない地域では、転用できるかどうかで価格の桁が変わる。手間をかける価値があるかどうかは、区域で先に見当が付く(静岡県農業会議・2026年7月31日確認)。
農地のままの価格は、長期で下がり続けている
全国平均では、都市的農業地域の市街化調整区域にある農用地区域内の中田が10アールあたり281万1千円で、32年連続の下落になった。最高値だった平成4年の1,121万3千円と比べると74.9パーセント下がっている(全国農業会議所・令和7年3月21日公表/2026年7月31日確認)。値上がりを待つ判断が効きにくいのは、この形による。待つ間も固定資産税は出ていく(農地の固定資産税)。
買い手を探す経路が、2つの方法でまったく違う
農地のまま売る場合、不動産の広告に出しても反応が出にくい。買える人が限られているので、母集団のいる場所に持ち込むほうが早い。
- 市町村の農業委員会。売渡しのあっせんを申し出る窓口になる
- 農地中間管理機構(農地バンク)。買入れと売渡しを行う特例事業がある
- 地域の農協や、近隣で規模を広げている経営体
買入協議という経路がある
高知県農業公社が公表している手順では、所有者が農業委員会に売渡しあっせんを申し出ると、農業委員会が市町村長に通知を要請し、市町村長は申し出があった日から3週間以内に公社と所有者へ買入協議の通知を行う。協議が成立すれば公社が買い入れ、認定農業者へ優先的に売り渡す(高知県農業公社・2026年7月31日確認)。手順と名称は都道府県ごとに違うので、自分の県の機構の呼び方は農業委員会で確認する。
この経路を通るかどうかは、後で出てくる特別控除が使えるかどうかに直結する。相手が同じ農家でも、直接話をまとめた場合と、あっせんや買入協議を通した場合とで税額が変わる。
出口を縦に一つずつ当たったが、条件で先に絞れた
編集部の運営者が相続したのは農地ではなく沖縄の傾斜地で、農地法の許可を申請した経験はない。制度の説明ではなく、出口を探した側の話として読んでほしい。
売却、寄付、国庫帰属と順に当たって、どれも成立せず今も保有している。固定資産税は年に約7万円が出ていく。当時は選択肢を縦に並べて上から潰していったが、いま同じ場所に戻るなら横に並べる。どの出口も、受け取る相手が誰で、その相手に何の資格が要るかで先に絞れたからだ。相手の条件を書き出す作業は1日で終わり、一つずつ当たって断られる数か月分の代わりになる。
転用して売る場合は、買い手を探す相手が不動産会社に変わる。ただし農地のままの状態で相談すると断られることがある。転用の見込みが立っていない土地は、売れる時期も価格も出せないからになる。区分の確認結果を持って行くと、話の入り口が変わる。
手取りは売値ではない。先に引かれるものを並べる
売値がそのまま残るわけではない。農地は取引額が小さくなりやすいので、費用の割合が大きく効く。
| 項目 | 内容 | 目安 |
|---|---|---|
| 仲介手数料 | 宅地建物取引業者に媒介を頼んだ場合の上限は国の告示で決まっている | 下の説明のとおり |
| 印紙税 | 売買契約書に貼る。軽減措置がある | 契約金額500万円超1,000万円以下で5,000円、1,000万円超5,000万円以下で1万円 |
| 許可申請の代行 | 行政書士に第3条や第5条の申請を頼む場合 | 事務所ごとに違うので見積もりを取る |
| 測量・境界確認 | 面積や境界が確定していない場合 | 土地の形と隣接者の数で大きく変わる |
| 登記 | 所有権移転と地目変更 | 負担する側は契約で取り決める |
仲介手数料の上限は2024年7月に変わっている
宅地建物取引業者が受け取れる報酬の上限は、昭和45年建設省告示第1552号で決まっている。原則は、代金のうち200万円以下の部分に5.5パーセント、200万円を超え400万円以下の部分に4.4パーセント、400万円を超える部分に3.3パーセントを乗じて合計した額になる(消費税相当額を含む)。
これに加えて、令和6年6月21日の改正告示が令和6年7月1日から施行され、低廉な空家等(価格800万円以下の宅地建物)については、原則の上限を超えて30万円の1.1倍にあたる33万円まで受け取れることになった(高知県・2026年7月31日確認)。売値が300万円でも400万円でも、手数料は33万円まで動きうるという意味になる。取引額が小さい農地では、この一項目が手取りに効く。媒介契約を結ぶ前に、報酬額の根拠と金額を確認する。
印紙税の軽減措置は、令和9年3月31日までに作成される契約書が対象になる(国税庁・令和7年4月1日現在の法令等/2026年7月31日確認)。
税金は、売り先ではなく通した経路で決まる
農地を売って利益が出た場合、他の所得と分けて課税される。計算の形は次のとおりになる。
譲渡所得=売った金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
税率は所有期間で2段になる
| 区分 | 判定 | 税率 |
|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年超 | 所得税15%+住民税5%。復興特別所得税を含めて合計20.315% |
| 短期譲渡所得 | 同 5年以下 | 所得税30%+住民税9%。復興特別所得税を含めて合計39.63% |
復興特別所得税は所得税額の2.1パーセントになる(国税庁・令和7年4月1日現在の法令等/2026年7月31日確認)。相続で取得した農地は亡くなった人の取得日を引き継ぐので、相続してから5年たっていなくても長期になることが多い。
特別控除は、金額ではなく手続きの名前で決まる
農地の特別控除は、売った相手や金額ではなく、どの制度に乗せて譲渡したかで決まる。
| 控除額 | 適用される場合 |
|---|---|
| 800万円 | 農地中間管理事業の推進に関する法律に基づく農用地利用集積等促進計画、農業委員会のあっせん等により農用地区域内の農地を譲渡した場合。農用地区域内の農地を農地中間管理機構に譲渡した場合 |
| 1,500万円 | 農業経営基盤強化促進法に基づき市町村長が通知する買入協議により、農用地区域内の農地を農地中間管理機構に譲渡した場合 |
| 2,000万円 | 農業経営基盤強化促進法に基づく地域農業経営基盤強化促進計画の特例により、農用地区域内の農地を農地中間管理機構に譲渡した場合 |
| 5,000万円 | 農地が土地収用法等により買い取られる場合など |
ここで誤解が広がっている。転用して売れば5,000万円の控除が使える、という説明を見かけるが、5,000万円は収用等により買い取られる場合の控除になる。転用して自分で売却先を探した場合とは別の話になる(農林水産省「農地を売った場合の税金」/2026年7月31日確認)。
800万円から2,000万円までの3つは、いずれも農用地区域内の農地が対象で、指定された手続きを通ったことが条件になる。知り合いの農家に直接売った場合は、相手が同じでも対象から外れる。売り先を決める前に、あっせんや買入協議を経由できるかを農業委員会に聞いておく順番になる。
取得費が分からないとき
先祖から引き継いだ農地で買った金額が分からない場合、売った金額の5パーセントを取得費とすることができる(国税庁・令和7年4月1日現在の法令等/2026年7月31日確認)。実際の取得費が売った金額の5パーセントを下回るときも同じ扱いになる。取得費が小さいほど課税される所得は大きくなるので、古い売買契約書や登記の記録は探しておく。
相続税を払っている場合は、取得費に加算できる特例と期限がある。期限の数え方は相続した土地を売る税金にまとめてある。
ここまでは制度の枠組みになる。編集部は士業ではないので、個別の税額計算と、どの特例に当たるかの判定はしない。金額の試算と適用の可否は、譲渡の前に税務署か税理士に確認する。
手続きの順番と、かかる時間の目安
2つの方法は、動く順序も待つ場所も違う。並べて置くと、自分がどこで止まっているかが見える。
| 農地のまま売る | 転用してから売る | |
|---|---|---|
| 1 | 区分と名義を確認する | 区分と名義を確認する |
| 2 | 農業委員会にあっせんを申し出る | 転用の見込みを農業委員会に照会する |
| 3 | 買い手を決める(耕作する人) | 買い手と用途を決める |
| 4 | 第3条の許可を申請する | 売買契約を第5条の許可を条件に結ぶ |
| 5 | 許可後に所有権移転登記 | 第5条の許可申請(市街化区域は届出) |
| 6 | ― | 許可後に所有権移転登記と地目変更登記 |
農地法の許可は、農業委員会の総会に合わせて処理される。申請の締切日と総会の開催日が月ごとに決まっていて、締切を1日過ぎると次の月に回る。標準処理期間は市町村によって異なるので、自分の農業委員会の日程表を先に取り寄せる(広島県・2026年7月31日確認)。
名義が親のままになっている場合は、どちらの道でも先に片づける。相続による農地の取得は許可ではなく届出になるが、届出と相続登記は別の手続きになる。名義が違うまま相談に行くと、本題の前に相続関係の説明で一往復増える。
2つの道がどちらも閉じているときに残る手
転用が認められない区分で、耕作する買い手も現れない土地はある。その場合に残るのは、売る以外の形になる。
- 貸す。買い手はいなくても借り手はいることがある。農地バンクを通した貸借の仕組みは農地バンクにまとめてある。所有は残るので固定資産税は出ていく
- 非農地の判断を受ける。長く耕作されず農地に戻せない状態と判断されると、農地法の対象から外れる場合がある。判断するのは農業委員会になる
- 相続土地国庫帰属制度に出す。相続または相続人に対する遺贈で取得した土地が対象になる
国庫帰属は、出せない土地の条件が先に決まっている
審査手数料は土地一筆あたり1万4,000円で、却下や不承認になっても返還されない。建物がある土地、担保権や使用収益権が設定された土地、境界が明らかでない土地などは申請の段階で却下される。崖があって管理に過分の費用がかかる土地などは不承認の事由になる(法務省・2026年7月31日確認)。
市場で売れない理由と、国が受け取らない理由は重なりやすい。制度があるから出せるはずだという見立ては、条件を読むと崩れることがある。どれも成立しない間は保有が続き、その年数分だけ固定資産税が出ていく。
よくある疑問
田んぼ1枚だけでも売れるか
面積を理由に許可されないことはなくなった。下限面積要件は令和5年4月1日に廃止されている。ただし買う人が全部効率利用要件と農作業常時従事要件を満たす必要は残っている。小さいから駄目なのではなく、耕す人でないと買えない、という条件になる。
家庭菜園をしたい知人に売れるか
第3条の許可要件を満たすかどうかで決まる。取得後に必要な農作業に常時従事することが求められるので、週末だけ手を入れる想定では通らないことがある。市民農園として貸す仕組みなど、別の形が用意されている自治体もある。判断は農業委員会になるので、話を進める前に相手の状況を持って照会する。
市街化区域の農地なら自由に売れるか
転用については、許可ではなく農業委員会への届出で足りる。ただし農地のまま権利を移す第3条の許可は、市街化区域でも必要になる。届出で済むのは転用のほうだけになる。
売却と相続の手続きは、どちらを先にやるか
名義を先に整える。相続で農地を取得した場合は農業委員会への届出が必要で、これは売る予定があるかどうかに関係なく発生する。名義が親のままだと、査定でもあっせんの相談でも相続関係の説明から始まることになる。
