借地で地主と揉めやすい5つの場面と、その前にやること
借地の実家は、土地が自分のものではないぶん、片づけの前に地主との話が挟まる。揉めやすい場面は更新、譲渡、建替え、更地返還、地代の5つにほぼ収まる。
先に契約書の日付を見る。平成4年8月1日より前の契約は更新の部分に旧借地法が残る。承諾料は借地権価格や更地価格の数パーセントという形で示される。
この記事の目次
最初に見るのは契約書の日付。平成4年8月1日で扱いが分かれる
借地借家法は平成3年法律第90号として成立し、平成4年8月1日から施行された。施行日は東京地方裁判所の借地非訟の書式例ページでも、更新後の建物再築許可の申立書が「平成4年8月1日以降に設定された借地権にのみ適用」と明記されている(2026年8月6日確認)。
この法律の附則4条は、原則として施行前に生じた事項にも新法を適用するとしている。ただし附則に別の定めがある事項は旧借地法のままになる。実家の借地で効いてくるのは次の3つ。
- 契約の更新に関すること(附則6条)
- 建物が朽廃したときの借地権の消滅(附則5条)
- 建物が滅失した後の再築による期間の延長(附則7条)
つまり昭和の契約で今も続いている借地は、更新の場面だけ古い法律の物差しが当たる。旧借地法では、更新後の期間は堅固建物で30年、非堅固建物で20年とされ、期間満了前に建物が朽廃すれば借地権は消滅するという規定があった。新法にはこの朽廃の規定がない。木造の実家が古い契約で建っている場合、この差は小さくない。
借地に建つ実家を相続した直後の順番は借地に建つ実家を相続したら|最初に確かめる3つと4つの出口にまとめてある。
場面1 更新。更新料を払う義務があるかは決着していない
借地借家法3条は借地権の存続期間を30年とし、4条は更新後の期間を最初の更新で20年、その後は10年としている。5条により、建物がある限り借地権者が更新を請求すれば従前と同じ条件で更新したとみなされ、地主が異議を述べるには6条の正当の事由が要る。正当の事由は、双方が土地を必要とする事情、従前の経過、利用状況、立退料などの申出を考慮して判断される。
揉めるのは金額のほうで、更新料の相場は借地権価格の3〜10パーセント程度という示され方をしている(センチュリー21中央プロパティー、2026年8月6日確認)。
ここは決着していない論点として扱うのが正確になる。契約に更新料の特約がある場合は請求できるが、特約がない場合には慣習による支払義務は認められないとして最高裁昭和51年10月1日判決を挙げる弁護士事務所の解説がある。合意ができないまま使用が続いて法定更新になった事案で、更新料請求を否定した地裁判決も紹介されている。当サイトは士業ではないので、あなたの契約がどちらかの判断はしない。契約書に更新料条項があるかを先に確認する、が実務の入口になる。
金額の見方は借地の更新料はいくら?払う義務があるかの見方で分解している。
場面2 譲渡。売るには承諾が要るが、拒まれても裁判所の許可がある
借地権付きの建物を第三者に売るとき、賃借権であれば地主の承諾が要る。承諾が得られないときの逃げ道が借地借家法19条1項で、地主に不利となるおそれがないのに承諾しない場合、裁判所が承諾に代わる許可を出せる。許可には財産上の給付を条件として付けられる。これが実務でいう承諾料にあたる。
金額の目安は、譲渡承諾料が借地権価格の10パーセント前後という形で示され、東京地裁の借地非訟部の運用として紹介されている(弁護士法人の解説、2026年8月6日確認)。借地権価格そのものは更地価格に借地権割合を掛けて概算されることが多い。
注意が要るのは19条3項の介入権で、借地権者が許可を申し立てると、地主のほうから自分が建物と賃借権を買い取ると申し立てることができる。裁判所が相当の対価を定めて命じる形になるため、申立てが必ず第三者への売却につながるとは限らない。
相続で借地権を引き継ぐ場合は譲渡ではないため、19条の許可も地主の承諾も要らないという整理が、複数の弁護士・不動産の解説で共通している。相続を理由に名義変更料を求められても、法律上の支払義務があるという説明にはならない。
承諾料の種類ごとの相場は借地の承諾料の相場|何を頼むときにいくら払うかにまとめてある。
場面3 建替えと増改築。契約に制限があるかで手続きが変わる
建替えでもめる根拠は、契約に増改築を制限する条項があるかどうかにある。制限があって協議が調わないときは、借地借家法17条2項により、土地の通常の利用上相当とすべき増改築について裁判所が承諾に代わる許可を出せる。木造から鉄筋コンクリートのように建物の種類や構造の条件そのものを変える場合は、17条1項の借地条件変更のほうになる。東京地裁の借地非訟係では、建替えに条件変更が必要なときは条件変更と増改築許可を併せて申し立てる扱いになっている。
期間の話も絡む。7条1項は、存続期間の満了前に建物が滅失し、残存期間を超えて存続する建物を築造した場合、地主の承諾があれば承諾の日か築造の日の早いほうから20年存続するとしている。2項では、通知から2か月以内に地主が異議を述べなければ承諾があったとみなされる。更新後の再築については18条に許可の制度があるが、附則11条により平成4年8月1日より前に設定された借地権には適用されない。
承諾料の目安は、建替承諾料が更地価格の3〜5パーセント程度、非堅固から堅固への条件変更を伴う場合は更地価格の10パーセント程度という示され方をしている(不動産各社の解説、2026年8月6日確認)。壁紙やキッチンの交換のような構造に影響しない修繕は、承諾の対象外と説明されることが多い。
場面4 更地にして返せと言われたとき。13条の建物買取請求権
実家じまいの当事者にとって、いちばん金額が動くのがこの場面になる。借地借家法13条1項は、存続期間が満了して契約の更新がないとき、借地権者は地主に対して建物その他を時価で買い取るよう請求できると定めている。解体して返すのが当然、という前提から入らないための条文がここにある。
16条により、10条・13条・14条に反する特約で借地権者に不利なものは無効とされている。契約書に「期間満了時は更地にして返還する」と書いてあっても、その一文だけで買取請求が消えるとは限らない。
ただし例外もある。22条の定期借地権では、存続期間50年以上で公正証書等の書面により、更新をしないことと13条の買取請求をしないことを定められる。契約の種類がどれかで結論が変わるので、契約書の表題と期間をそのまま読む。
14条は、建物を取得した第三者について、地主が譲渡や転貸を承諾しないときの買取請求を定めている。競売で取得した場合は20条の許可申立てがあり、建物の代金を支払った後2か月以内という期限が付いている。
解体費用と買取請求のどちらから検討するかは更地にして返せと言われたら|建物買取請求権という条文で扱っている。
場面5 地代の値上げ。11条は払う側にも手順を用意している
地代の増減について定めているのは借地借家法11条になる。租税その他の公課の増減、土地価格の変動その他の経済事情の変動、近傍類似の土地の地代と比べて不相当になったときに、当事者は将来に向かって増減を請求できる。一定期間増額しない特約がある場合はそれに従う。
払う側にとって実務的なのは11条2項で、増額について協議が調わないときは、増額を正当とする裁判が確定するまで、相当と認める額を支払えば足りるとされている。ただし裁判で不足が確定した場合は、その不足額に年1割の利息を付けて支払うことになる。減額を請求する側についても3項に同じ構造の規定がある。
つまり、提示された額に納得しないまま滞納する、というのが最も危ない選択になる。地代の不払いは債務不履行として契約解除の入口になりうるため、従来額または自分が相当と考える額を払い続ける、受け取りを拒まれるなら供託を検討する、という手順が語られている。
なお12条により、地主は最後の2年分の地代について借地上の建物に先取特権を持つ。地代の未払いは建物の側に跳ね返る仕組みになっている。
揉める前に、手元にそろえる書面
どの場面でも、話し合いの前に事実を確定させる書面が要る。地主と口頭でやり取りを始める前に、次を集めておくと論点が減る。
- 土地賃貸借契約書。設定日、存続期間、建物の種類の制限、増改築制限、更新料と承諾料の条項の有無を見る
- 建物の登記事項証明書。10条は、借地権の登記がなくても借地権者名義で登記された建物があれば第三者に対抗できるとしている。名義が亡くなった親のままなら相続登記が先になる
- 地代の支払い記録。通帳や領収書。増額の経過と据置期間がここに出る
- 公図と測量図、固定資産税の課税明細。面積と現況を突き合わせる
- 過去のやり取り。承諾書、覚書、内容証明。前の代で交わした書面が残っていることがある
契約書が見つからない借地は珍しくない。旧法時代の契約には書面自体を作っていないものもあると、複数の法律事務所が指摘している。その場合は登記と支払い記録から、いつから、いくらで、どんな建物のために借りているかを積み上げることになる。
借地非訟という制度。どこに申し立てて、誰が判断するのか
承諾が得られないときに使うのが借地非訟で、東京地方裁判所では民事第22部が扱っている。同裁判所の説明では、申立ての類型は借地条件変更、増改築許可、更新後の建物再築許可、土地の賃借権譲渡または転貸の許可、競売公売に伴う賃借権譲受許可、地主側の介入権にあたる譲受申立ての6つになる(2026年8月6日確認)。
管轄は借地借家法41条により、原則として土地の所在地を管轄する地方裁判所になる。手続は審問期日を重ねる形で進み、非公開で行われる。17条6項・19条6項により、裁判所は特に必要がないと認める場合を除き、裁判の前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない。鑑定委員は弁護士、不動産鑑定士、建築士を含む有識者から3人以上が指定され、許可の可否だけでなく承諾料や名義変更料の額についても意見を出す。
44条により、手続代理人は原則として弁護士でなければならない。書式例は裁判所のサイトで公開されているが、承諾料の額と借地権の評価が争点になる以上、自力で完結させる前提の制度ではない。
借地権割合。相続税の評価は国税庁の路線価図で確認する
承諾料も買取価格も借地権価格を基準に語られるため、借地権割合を自分で確認できるかどうかで話の見え方が変わる。
国税庁のタックスアンサーNo.4611は、借地権の価額を、その宅地の自用地としての価額に借地権割合を乗じて求めるとしている。借地権割合は路線価図や評価倍率表に表示されており、国税庁ホームページの財産評価基準書 路線価図・評価倍率表で閲覧できる。地主側の底地については同No.4613が、自用地としての価額から自用地としての価額に借地権割合を乗じた額を差し引く方式を示し、借地権の取引慣行がないと認められる地域では借地権割合を20パーセントとして計算するとしている(いずれも2026年8月6日確認)。
路線価図の借地権割合は地域ごとに記号で表示され、割合の幅は30〜90パーセントの範囲で示される。都心の商業地ほど高い。ここで得られるのは相続税の評価額であって、売買の実勢価格ではない。承諾料の交渉で使われる借地権価格も、更地価格に借地権割合を掛けた概算であることが多く、鑑定評価とは一致しない。
相続税の申告が要る規模かどうか、小規模宅地等の特例に当たるかどうかは、契約と同居の状況で結論が変わる。当サイトは税額の計算をしない立場なので、確認する場所だけ示す。
借地権の評価額と相続税の要否を確かめる
借地権も相続財産として評価される。路線価図で割合まで見たら、次は自分のケースで申告が要るかどうかになる。無料の相談窓口で、評価と申告の要否だけ先に確認しておくと、地主との金額の話にも根拠が持てる。
無料で相続税の相談をする自分で進める範囲と、専門家に渡す段階の線引き
ここまでの5つの場面で、当事者が自分でできることと、渡したほうがよいことの境目はかなりはっきりしている。
| 段階 | やること |
|---|---|
| 書面をそろえる | 契約書、建物の登記事項証明書、地代の記録、課税明細。ここは本人でできる |
| 条文を当てる | 契約日で旧法か新法かを分け、更新は5条6条、譲渡は19条、建替えは17条、返還は13条、地代は11条を見る |
| 相場を幅で持つ | 更新料は借地権価格の3〜10パーセント、譲渡承諾料は10パーセント前後、建替承諾料は更地価格の3〜5パーセントという示され方をしている |
| 専門家に渡す | 内容証明が届いた、契約解除や明渡しを言われた、借地非訟を検討する、承諾料の額で折り合わない |
内容証明が届いた段階で、返事を書く前に相談したほうが選択肢が減らない。感情的な返信も、無視も、後から不利な事実として持ち出される。
相談先は内容で分かれる。法律上の争いは弁護士、登記は司法書士、相続税の評価と申告は税理士、売却や底地の買取は借地権を扱う不動産会社になる。無料の公的窓口は一般的な助言までで、交渉の代理はしないと自ら説明している。
借地は、土地が自分のものである実家じまいより一手多い。その一手は地主の承諾で、承諾が取れないときの代わりの手続きが法律に書いてある。順番は、書面をそろえる、条文を当てる、金額を幅で持つ、それから話す、になる。
