更地にして返せと言われたら|建物買取請求権という条文
地主から更地にして返すよう言われ、解体業者の見積りを取り始めた段階で開かれることが多いページです。
解体を契約する前に確かめるのは借地借家法13条。期間満了で更新されずに終わる借地なら、建物を時価で買い取れと請求できます。放棄させる特約は16条で無効。ただし当初の契約日が平成4年7月31日以前かどうかで、適用される法律自体が変わります。
この記事の目次
解体の契約より先に確かめる3つ
地主からの連絡が「更地にして返してほしい」という形で届くと、話は解体業者を探す方向へ流れやすい。解体は着工すると戻せない。先に確かめるのは次の3つで、いずれも手元の書類で足りる。
- 借地契約を最初に結んだ日。平成4年7月31日以前か、8月1日以後かで適用される法律が変わる。更新を何度重ねていても、見るのは当初の契約日。
- 契約が終わる理由。期間満了で更新がないのか、地代の滞納などで解除されたのか、話し合いで解約したのか。建物買取請求権が使えるかはここでほぼ決まる。
- 建物の登記名義。登記が親の名義のままだと、請求する人と建物の所有者がずれる。法務局の登記事項証明書で確認する。
建物買取請求権は借地借家法13条にある
根拠は借地借家法13条1項。借地権の存続期間が満了した場合において契約の更新がないとき、借地権者は借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求できる、と定めている(e-Gov法令検索・借地借家法。2026年8月6日確認)。
この権利は形成権と説明される。買い取れという意思表示が地主に届いた時点で建物の売買契約が成立したのと同じ効果が生じ、地主は諾否を選べない。承諾を待つ交渉ではない点が、値段の話し合いと決定的に違う。争いになるのは「買うかどうか」ではなく「いくらか」になる。
放棄させる特約も原則として効かない。16条が、10条・13条・14条の規定に反する特約で借地権者に不利なものは無効だと定めている。契約書に「期間満了時は建物を収去し更地で返還する」と書かれていても、その一文だけで13条が消えるわけではない。
建物だけを買った第三者にも似た規定がある。14条は、第三者が借地上の建物その他を取得したのに地主が賃借権の譲渡または転貸を承諾しない場合、その第三者が時価での買取りを請求できるとする。
平成4年8月1日という分かれ目
借地借家法の施行日は平成4年8月1日。同日をもって旧借地法・旧借家法・建物保護に関する法律は廃止された。附則4条は、この法律の規定は附則に特別の定めがある場合を除き施行前に生じた事項にも適用するとしつつ、廃止前の法律により生じた効力を妨げないと書いている(衆議院・法律第九十号(平三・一〇・四)附則。2026年8月6日確認)。
実務で効いてくるのは「特別の定め」の側だ。附則5条は建物の朽廃による借地権の消滅、附則6条は契約の更新、附則7条は建物滅失後の再築による期間延長について、施行前に設定された借地権はなお従前の例によるとする。存続期間と更新という借地の中心部分が、旧借地法のまま残る。
期間の数え方が違う
旧借地法は建物の構造で分けていた。堅固建物は法定60年・契約で定める場合は30年以上・更新後30年、非堅固建物は法定30年・契約で定める場合は20年以上・更新後20年。借地借家法は構造の区別をやめ、一律30年(3条)、最初の更新は20年、その後は10年(4条)とした(文の風東京法律事務所の解説。2026年8月6日確認)。
実家の借地は当初契約が昭和のものであることが珍しくない。その場合、更新を何度繰り返していても期間と更新は旧借地法で読む。建物買取請求権そのものは旧借地法4条2項にも同趣旨の規定があり、新旧どちらでも土台は残る(弁護士法人横浜りんどう法律事務所の解説。2026年8月6日確認)。ただし借地借家法13条2項、つまり地主の承諾を得ずに残存期間を超えて存続する建物が築造された場合に裁判所が代金支払の期限を許与できる規定は、附則9条により施行前に設定された借地権には適用されない。
使える場合と、使えない場合
13条が動く形は限定されている。期間満了で終わること、更新がないこと、借地人所有の建物が現に土地の上にあること、借地人が買取りの意思表示をすること。この4つが揃った場合に限られる。地主が更新を拒み、その拒絶に正当の事由(6条)があって契約が終わる場面が典型になる。
裏返すと、次の場面では請求できない、または請求が通らない扱いになる。
| 場面 | 理由 |
|---|---|
| 地代の滞納など債務不履行で解除された | 期間満了による終了ではない |
| 地主と話し合って合意解約した | 13条の文言がそのまま当たらず、買取請求権を放棄したものと扱われることがある |
| 定期借地権(22条)で特約により排除している | 更新も買取請求もない前提で設定された契約 |
| 存続期間10年以上30年未満の事業用定期借地権(23条2項) | 13条が法律上適用されない |
| 一時使用目的が明らかな借地(25条) | 13条が適用されない |
| 建物が借地と隣地にまたがっている | 判例上、買取請求が認められないとされる |
実家の借地でよく効いてくるのは上の2行だ。滞納を放置したまま解除に至ると、13条という一番強い札を失う。相続で地代の振込先が分からなくなり、結果として数か月止まっていた、という形で起きる。
時価はどう決まるか
13条は代金を「時価」とだけ書く。判例は、建物が現存するままの状態の価格であって敷地の借地権の価格を加算すべきではないが、その建物が存在する場所的環境は参酌して算定すべきとしている(最高裁昭和35年12月20日判決。内藤寿彦法律事務所の解説より。2026年8月6日確認)。
実務ではこれを二段に分けて見る。ひとつは建物本体の価格で、同じ建物を今建てたときの費用から経過年数分を差し引いた額。もうひとつが場所的利益で、その場所に建物が建っていること自体の価値を指す。場所的利益は更地価格の10パーセント程度と評価される傾向がある、という形で語られることが多く、一点の金額ではなく幅として持っておく数字になる。
築年数の古い木造家屋では、本体の価格はほとんど残らない。それでも場所的利益の分が残るため、買取代金がゼロだと決めつける必要はない。逆方向の注意もある。立退料を受け取った後に買取請求をした事案で、権利の濫用として請求が認められなかった裁判例がある。立退料と買取代金は、場所的利益の部分で中身が重なりうる。
いつ、どうやって行使するか
行使できる時期は思ったより遅くまで残る。建物を収去して土地を明け渡せという判決が確定した後でも請求できるとした判例がある(最高裁平成7年12月15日判決)。ただし建物を壊してしまえば対象が消えるため、実務上の締切は解体の着工日になる。
- 意思表示を出す。買取りを請求する旨を、日付と内容が残る形で地主に届ける。内容証明郵便が使われるのは、いつ届いたかが代金の算定時点になるため。
- 代金を協議する。折り合わなければ、時価を訴訟で争う形になる。不動産鑑定が入ることも多い。
- 支払と引渡し。代金の支払と建物の引渡しは原則として引換えで処理される。決済までの間の地代相当額の負担も、あわせて決めておく。
建物に賃借人がいる場合は、地主が建物の賃貸人の地位を引き継ぐことになる。決済までの家賃の帰属と、地主に対する地代相当額の支払義務が別々に動くため、入居者がいるまま請求するときは先に整理しておく。
解体費を払う前に、3つの数字を並べる
判断は結局、次の3つを同じ紙に並べた時点でほぼ決まる。
- 解体して更地で返す:解体費と廃棄物処分費が出ていく。手元に残る現金はない。
- 13条で買い取らせる:解体費が消え、建物本体の残価と場所的利益が入る。地主との関係は交渉から法律論に移る。
- 借地権ごと売る:地主の承諾、または裁判所の許可が要るかわりに、借地権としての価格で動く。第三者に売る、地主に買ってもらう、地主の底地と同時に売る、の3通りがある。
解体費は建物の構造、前面道路の幅、付帯物の量で大きく動く。金額を一点で持たず、複数社の見積りで幅を掴んでから比較する。
3つ目の同時売却が高くなる理由は 底地と借地権|地主と同時に売ると高くなる仕組み に分けてある。
借地権にいくら付くかを国税庁で確認する
借地権の値段の目安は、税務の側から確認できる。財産評価基本通達27は、借地権の価額を、その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に、売買実例価額・精通者意見価格・地代の額等を基として評定した割合(借地権割合)がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める割合を乗じて計算した金額で評価するとしている。権利金その他の一時金を支払うなど借地権の取引慣行があると認められる地域以外の借地権は評価しない、というただし書も付く(国税庁・財産評価基本通達 第2節。2026年8月6日確認)。
借地権割合を調べる場所は、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」。路線価の右隣に付くA〜Gの記号が割合を示し、A:90%、B:80%、C:70%、D:60%、E:50%、F:40%、G:30%に対応する(国税庁・路線価図の説明。2026年8月6日確認)。「215D」なら1平方メートル当たり215,000円、借地権割合60パーセントという読み方になる。
注意点がひとつ。ここで出る数字は相続税と贈与税を計算するための評価額であって、売買価格ではない。実際の取引はこれを下回ることもある。借地権の取引慣行がないと認められる地域では、貸宅地の評価にあたり借地権割合を20パーセントとして計算する扱いもある(国税庁タックスアンサーNo.4613。2026年8月6日確認)。
更新料と承諾料は、決着していない部分がある
「更新するなら更新料を」「建て替えるなら承諾料を」と言われたときの金額は、法律に書かれていない。
更新料
最高裁昭和51年10月1日判決は、更新料を支払う慣習の存在を否定し、慣習を根拠とする支払義務を認めなかった(判例時報835号63頁)。契約書に定めがなければ支払義務はない、という整理が実務で使われている。一方、契約書に更新料条項がある場合にそれがどこまで効くか、法定更新にも及ぶかは下級審の判断が分かれており決着していない。金額を算出できる程度の具体的な基準がなければ更新料請求権は具体的権利にならないとした裁判例もある(東京高裁令和2年7月20日判決。全国借地借家人組合連合会の紹介より。2026年8月6日確認)。
承諾料と借地非訟
地主が譲渡や建て替えを承諾しないとき、裁判所に承諾に代わる許可を求める借地非訟という手続がある。賃借権の譲渡・転貸の許可は借地借家法19条、借地条件の変更と増改築の許可は17条。管轄は借地の所在地を管轄する地方裁判所で、東京23区と島しょ部の借地は東京地裁民事第22部が扱う(裁判所・借地非訟とは、借地非訟事件手続の流れ。2026年8月6日確認)。
金額の目安は、借地非訟の運用として語られる数字を幅で持つ。譲渡承諾料は借地権価格の10パーセント前後、非堅固建物から堅固建物への借地条件の変更は更地価格の10パーセント前後、建て替え・増改築の承諾料は更地価格の3〜5パーセント程度という示され方が多い。いずれも法定の料率ではなく、最終的には当事者の合意か裁判所の判断で動く。
相続で引き継いだ借地は、部品が足りていない
相続で借地を引き継いだ場合、13条を使う前に埋める穴がある。
- 建物の名義。登記が被相続人のままだと、請求する立場と所有者がずれる。買取代金の受け取りにも関わるので、先に相続登記を済ませる。
- 地代の支払を止めない。相続による借地権の承継自体に地主の承諾は要らないと解されているが、振込先や請求書の宛先が変わることで支払が止まりやすい。滞納で解除されると、s4のとおり13条は使えなくなる。
- 契約書の現物。当初契約日、期間、増改築禁止特約、更新料条項の有無を確認できる場所はここしかない。見つからない場合は、地主側の控えと、地代の領収書や振込記録から遡る。
相続直後にやる順番は 借地に建つ実家を相続したら|最初に確かめる3つと4つの出口、手放し方の全体像は 借地上の実家を手放す方法|返還と放棄と国庫帰属の違い に分けてある。
編集部が答えない範囲と、確認先
編集部は士業ではない。あなたの契約が旧借地法と借地借家法のどちらで読まれるか、更新料条項が有効か、買取代金がいくらになるかは、契約書と登記と現地を見た人でなければ答えられない。この記事でできるのは、条文がどう書いてあるかと、確認する場所を示すところまでになる。
確認先は次の4つ(いずれも2026年8月6日時点)。
- 条文:e-Gov法令検索の借地借家法。13条・14条・16条・17条・19条・22条から25条、そして附則。附則を読まないと自分の契約がどちらの法律で動くか分からない。
- 借地権割合と評価:国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」と財産評価基本通達27。
- 地主と話がつかないとき:借地の所在地を管轄する地方裁判所の借地非訟(借地借家法41条)。申立ての代理人は弁護士に限られる(44条1項本文)。申立書の書式例は東京地裁民事第22部のページで公開されている。
- 建物の名義:法務局の登記事項証明書。
解体工事の契約書に署名する前に、この4か所は開けておく。開けた結果として更地で返すという判断になるなら、それは同じ更地返還でも中身が違う。
