借地権付きの実家を売る3つの方法|地主・第三者・同時売却
土地は地主のものだから売れない、と思ったまま置かれている実家は多い。借地権は売却できる。売り先は地主・第三者・底地と同時の3つで、更地価格に対する目安は50〜70%前後と幅がある。
分かれ目は契約が平成4年8月1日より前か後か、そして地主の承諾が取れるかどうか。承諾が出ない場合は、裁判所に許可を求める道が借地借家法19条にある。
この記事の目次
借地権付きの実家の売り先は3つしかない
借地権付きの実家を手放す方法は、突き詰めると売り先が3つに絞られる。地主に買ってもらう、第三者(個人の買主・買取業者・不動産投資家)に売る、地主の底地と一緒に完全な所有権の状態にして売る、の3つ。どれを選ぶかで手取りが数百万円単位で変わる。
目安として、センチュリー21中央プロパティーが公開している売却先別の相場では、地主が買う場合は更地価格の50%前後(借地人の側から持ちかけたとき)から60〜70%(地主の側から持ちかけたとき)、不動産投資家に売る場合は70%前後、買取業者は50%前後とされている。第三者に売るときは、これとは別に譲渡承諾料が借地権価格の10%程度かかるとされる(2026年8月6日確認)。一点の金額で決まる世界ではなく、誰に売るか、地主がどう出るかで動く幅の方が大きい。
先に線を引いておくと、実家じまいナビ編集部は士業ではない。以下は条文と公的機関が公開している資料に何が書いてあるかを整理したもので、あなたの契約がどう扱われるかの判断は、契約書を見た弁護士・司法書士・税理士に確認する範囲になる。個別の税額計算や、地主との紛争の見通しはここでは扱わない。
進む順番は、契約書と登記を確認する、適用される法律を見極める、売り先を3つ比べる、地主と話す、になる。相続したばかりで全体像から見たい場合は借地に建つ実家を相続したら|最初に確かめる3つと4つの出口から入る方が早い。
最初にやること:平成4年8月1日より前の契約かどうかを確かめる
借地の話がややこしくなる原因の大半は、適用される法律が2本あることにある。借地借家法(平成3年法律第90号)の附則第1条は「この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」と定めており、その施行日が平成4年8月1日にあたる(e-Gov法令検索・借地借家法、2026年8月6日確認)。東京地方裁判所も借地非訟の書式案内で、更新後の建物再築許可の申立てを「平成4年8月1日以降に設定された借地権にのみ適用」と明記している。
そのうえで、附則には次の3か条がある。第4条「この法律の規定は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する。ただし、附則第二条の規定による廃止前の建物保護に関する法律、借地法及び借家法の規定により生じた効力を妨げない」。第5条「この法律の施行前に設定された借地権について、その借地権の目的である土地の上の建物の朽廃による消滅に関しては、なお従前の例による」。第6条「この法律の施行前に設定された借地権に係る契約の更新に関しては、なお従前の例による」。
読み取れることは2つある。ひとつは、施行前に設定された借地権でも、更新と朽廃という中核部分は旧借地法(借地法)のルールが生き続けるということ。もうひとつは、それ以外の事項には新法が働くということで、賃借権の譲渡許可(19条)のように売却で使う手続は、古い借地権でも借地借家法の条文で動く。
期間のルールが違う
新法の第3条は「借地権の存続期間は、三十年とする。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間とする」、第4条は更新後の期間を「更新の日から十年(借地権の設定後の最初の更新にあっては、二十年)」と定める。建物の構造による区別はない。
これに対し旧借地法は、建物を堅固(石造・煉瓦造・コンクリート造など)と非堅固(木造など)に分け、期間の定めがない場合は堅固60年・非堅固30年、更新後は堅固30年・非堅固20年としていたと説明されている(日本地主家主協会、2026年8月6日確認)。実家の借地は木造で、契約書が見当たらないか、あっても数行という例が多い。どちらの法律に服するかで残りの期間の見え方が変わるので、地主と話す前に確認しておく。
手元で探す3点
- 土地賃貸借契約書(設定年月日が書いてあれば決め手になる)
- 建物の登記事項証明書(誰の名義で、いつの建築か。亡くなった親の名義のままなら相続登記が先)
- 地代の領収書・振込記録(金額と支払先、いつから続いているか)
建物に自分名義の保存登記があるかどうかは、地主が土地を第三者に売ったときに借地権を主張できるかに関わる論点として、全日本不動産協会の実務Q&Aでも売買時の確認点に挙げられている(2026年8月6日確認)。
方法1:地主に買ってもらう
いちばん素直な出口は、地主に借地権を買い取ってもらう形になる。地主から見ると、借地権が消えて土地が完全な所有権に戻り、自由に売ることも建てることもできるようになる。底地のままでは市場でほとんど値が付かないことを考えると、地主側の利益は小さくない。
相場の示され方には非対称がある。前掲のセンチュリー21中央プロパティーの整理では、借地人の側から売りたいと持ちかけた場合は更地価格の50%前後、地主の側から買いたいと言ってきた場合は60〜70%とされている(2026年8月6日確認)。同じ物件でも、話をどちらが始めたかで数字が動くという前提で臨む必要がある。
地主に売る形の利点は、譲渡承諾料が要らないこと、承諾が得られるかどうかを心配しなくてよいこと、境界や地代の引き継ぎでもめないことにある。難点は、地主に資金がないと成立しないこと、そして相手が1人しかいないため価格の比較対象を持ちにくいことにある。
なお、後述する裁判所の手続に入った場合、地主の側が建物と賃借権を自分が譲り受けると申し立てる制度がある(借地借家法19条3項。実務では介入権と呼ばれる)。地主が買う可能性は、交渉の外にも用意されているということになる。
方法2:第三者に売る(承諾が要る・出ないときは裁判所)
地主が買わない場合、次は第三者への売却になる。ここで必ず出てくるのが地主の承諾で、実務では譲渡承諾料(名義書換料)を支払って承諾書をもらう形が一般的とされる。金額の目安は借地権価格の10%程度と説明されることが多い(長谷工の仲介、センチュリー21中央プロパティー。いずれも2026年8月6日確認)。建物を建て替えて売る場合の建替承諾料は、更地価格の3%程度という示し方もある(長谷工の仲介)。いずれも幅のある目安で、契約書に定めがあればその定めが先に効く。
承諾が得られないとき
地主が承諾しない場合の受け皿が、借地借家法19条1項になる。条文は「借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる」とし、続けて「その許可を財産上の給付に係らしめることができる」と定める。つまり、裁判所が金銭の支払いを条件に許可を出す形になる。
判断材料は同条2項に「賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情」と書かれている。また6項により、裁判所は特に必要がないと認める場合を除き、裁判の前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない。東京地方裁判所民事第22部の案内によれば、鑑定委員は弁護士・不動産鑑定士・有識者(建築士を含む)から3人以上が指定される(2026年8月6日確認)。
この手続は借地非訟と呼ばれ、東京地裁では民事第22部が扱う。申立ての種類は、借地条件変更(17条1項)、増改築許可(17条2項)、更新後の建物再築許可(18条1項)、土地の賃借権譲渡または転貸の許可(19条1項)、競売・公売に伴う賃借権譲受許可(20条1項)、地主の介入権(19条3項・20条2項)に整理されている。申立手数料は借地の土地の価格(固定資産税評価額)を基礎に算定されるため、申立時に固定資産評価証明書の原本が要る。
裁判所が命じる金銭の水準について、公益財団法人日本住宅総合センター系の実務誌Realpartner(2017年4月号・vol.159)には「借地非訟裁判では借地権価格の10%の裁判例が多くなっています」と書かれている(2026年8月6日確認)。任意の承諾料の目安と近い水準に落ち着いている、という読み方になる。
買い手が限られる理由
第三者への売却は、価格の上限は高くなりうる一方で、買える人が限られる。地主の承諾書がそろわない段階では住宅ローンが付きにくく、結果として現金で買える不動産会社や投資家が中心になる。売り出してから承諾交渉、承諾が出なければ非訟手続と進むため、所有権の家を売るより時間の読みが立てにくい。
方法3:底地と同時に売る、または等価交換する
3つめが、地主の底地と借地権を同時に市場へ出す方法になる。借地権だけでは買い手が限られ、底地だけでは地代しか生まないが、2つが合わさると普通の所有権の土地になり、一般の買主や住宅ローンの土俵に戻る。合計額が、別々に売った金額の合計より大きくなりやすいのはこのためになる。
問題は分け方で、出発点として使われるのが後述の借地権割合になる。借地権割合が60%の地域なら、売却代金を借地人60・地主40で分けるところから交渉が始まる、という形になる。実際には建物の解体費を誰が負担するか、地代の精算、承諾料を相殺するかで動く。
同時売却が成立しやすいのは、地主の側にも整理の動機があるときになる。地主が高齢である、地主側でも相続が起きた、底地を物納や納税資金にしたい、といった場面が重なると話が進む。逆に、地主が代替わりしたばかりで方針が決まっていない時期は待ちになりやすい。
もうひとつ、借地権と底地の一部同士を交換して、それぞれが小さくても完全な所有権の土地を持つ形にする等価交換という手もある。交換後は普通の土地として売れるが、面積が細切れになると接道や建築の条件で使えなくなることがあり、分け方の設計が要る。仕組みと数字の詰め方は底地と借地権|地主と同時に売ると高くなる仕組みで扱っている。
いくらになるのか:借地権割合は国税庁の資料で確認する
価格の当たりを付ける出発点は、国税庁が毎年公表する財産評価基準書の路線価図・評価倍率表になる。2026年8月6日時点で最新は令和8年分と表示されている。路線価図には路線価の数値のあとにアルファベットが付いており、これが借地権割合を表す。国税庁の路線価図の説明では、Aが90%、Bが80%、Cが70%、Dが60%、Eが50%、Fが40%、Gが30%とされている。
評価の式そのものは国税庁のタックスアンサー(借地権の評価)に示されており、借地権の価額は「その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額×借地権割合」で求める、借地権割合は借地事情が似ている地域ごとに定められ路線価図や評価倍率表に表示されている、と書かれている(2026年8月6日確認)。一時使用目的の借地権のように、通常の借地権割合を当てはめるのが適当でない場合は別の評価方法によるとも書かれている。
相続税の側からいくらで評価されるのかを知りたい場合は、計算の順番を借地権の相続税評価|借地権割合で計算する順番にまとめている。売却価格の話と相続税評価の話は別物なので、混ぜないほうがよい。
売る前に片づけておくもの:地代・更新料・無断の増改築
借地権の売買では、契約が今どういう状態かがそのまま価格と成約可否に響く。地主が承諾書を出す前に必ず見るのがここになる。
- 地代の滞納。数か月分でも残っていると承諾の交渉に入りにくい。金額と支払先を通帳で確認する
- 建物の名義。亡くなった親の名義のままなら、売る前に相続登記が必要になる
- 過去の増改築。契約書に承諾を要する定めがあるのに無断で行った履歴があると、そこが交渉の材料にされる
- 更新料の未払い。争いになりやすい論点で、下に分けて書く
更新料は決着していない
更新料については、最高裁昭和51年10月1日判決が、更新料を支払う慣習を根拠とした支払義務を認めなかったと紹介されている(東京借地借家人組合連合会の判例紹介、内藤寿彦法律事務所、公益財団法人不動産流通推進センターの相談事例。いずれも2026年8月6日確認)。契約書に支払いの定めがあれば原則として支払う側になるが、その定めが「相当の更新料」のように金額を算出できる基準を欠く場合は具体的な請求権として認められないとした東京高裁令和2年7月20日判決も紹介されている。さらに、更新料の特約は合意更新のときだけ適用され、法定更新には及ばないとする下級審判例がかなりある、という整理も公表されている(不動産流通推進センター)。
つまり、払う義務があるかないかは、契約書の文言と更新の経緯で結論が変わり、実務上も一本に定まっていない。地主から更新料を請求されている状態で売却を進めるなら、支払うかどうかを決める前に、契約書を弁護士に見せる工程を挟む方が安全になる。判断の分かれ目は借地の更新料はいくら?払う義務があるかの見方で扱っている。
相続登記や名義の整理から詰まっている場合
建物が親名義のままだと売買の前段で止まる。誰が相続人で、どの順番で登記と申告を進めるかは、契約書と戸籍を見た専門家でないと判断できない。
無料で相続税の相談をする更新できないとき・承諾が出ないときの建物買取請求権
売る以外の出口として、条文上用意されているのが建物買取請求権になる。借地借家法13条1項は「借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる」と定める。更新されずに終わるとき、建物を取り壊して返すのではなく、時価で買い取れと請求できるという意味になる。
もうひとつが14条で、条文は「第三者が賃借権の目的である土地の上の建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を取得した場合において、借地権設定者が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、その第三者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる」となっている。買主側が持つ権利で、承諾が出ない場面のリスクを買主がどう見るかに影響する。
注意点は、買取請求の対象が建物であって、借地権そのものの価格ではないことにある。築数十年の木造家屋なら、時価は期待した額に届かないことが普通になる。売却の代わりに使える手というより、最悪の場合でも更地にして返すだけでは終わらない、という下支えとして理解する方が実態に近い。
また、定期借地権の場合は前提が変わる。22条1項は、存続期間を50年以上として設定する場合に、契約の更新も建物築造による期間の延長もなく、13条の買取請求もしないと定めることができるとし、その特約は公正証書による等書面によってしなければならないとする。契約書に定期借地の定めがあるなら、更新も買取請求も期待できない前提で出口を組み立てることになる。
かかる費用と税金
手取りは売却価格から引かれるもので決まる。項目は所有権の売却より多い。
| 項目 | 目安・出所 |
|---|---|
| 譲渡承諾料(名義書換料) | 借地権価格の10%程度とされる。第三者に売る場合。地主に売る場合は不要(長谷工の仲介、センチュリー21中央プロパティー) |
| 建替承諾料 | 更地価格の3%程度とされる(長谷工の仲介) |
| 建物の解体費 | 木造住宅で150万〜300万円程度という例が示されている(センチュリー21中央プロパティー) |
| 仲介手数料 | 仲介で売る場合 |
| 登記費用 | 登録免許税・司法書士報酬 |
| 印紙税 | 売買契約書に貼付 |
| 譲渡所得税・住民税 | 利益が出た場合 |
| 借地非訟の申立手数料 | 土地の価格(固定資産税評価額)を基礎に算定。裁判所へ納付 |
いずれも2026年8月6日時点で確認した数値で、承諾料は契約書に定めがあればその定めが優先する。地域や地主との関係で上下するため、幅の中のどこに着地するかは交渉次第になる。
居住用財産の3000万円特別控除
売却益が出る場合に効く可能性があるのが、マイホームを売ったときの3000万円特別控除になる。国税庁のタックスアンサーには、控除の対象として家屋とともに売ったその敷地や借地権が挙げられており、借地権も対象に含まれる。以前住んでいた家屋の場合は「住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること」が要件とされ、家屋を取り壊した敷地の場合も同じ期限が示されている。売った年の前年および前々年にこの特例等の適用を受けていないことも要件に入る(2026年8月6日確認)。
ただし、この特例が実家のケースに当てはまるかは、誰がいつまで住んでいたか、相続後の使い方、共有かどうかで変わる。実家じまいナビ編集部は税額の計算をしない。要件に当たるかどうかは、売買契約の前に税務署または税理士に確認する項目になる。
進め方の順番
借地権の売却は、順番を間違えると戻れない場面がある。地主に切り出す前にやっておくことが多い。
- 契約書・建物の登記事項証明書・地代の記録を集める。設定年月日から、旧借地法と借地借家法のどちらに服するかを見る
- 建物が亡くなった親の名義なら相続登記を進める。ここが済まないと売買に入れない
- 路線価図・評価倍率表で借地権割合を調べ、上限の目盛りを持つ
- 借地権の取扱い実績がある不動産会社に査定を取る。第三者に売った場合の水準を先に知る
- 地主に売却の意向を伝え、買い取る意思があるかを確認する。買わない場合は譲渡の承諾と承諾料の条件を詰める
- 底地と同時に売る選択肢を地主に提示する。合計額が増える構図を数字で示す
- 承諾が出ない場合に、借地借家法19条1項の申立てを使うかどうかを弁護士と検討する
3と4を飛ばして5に入ると、地主が示した金額が高いのか安いのかを判断する材料がないまま交渉することになる。査定を取ること自体は地主への通知にはならないので、先に数字を持ってから話を始める形が取りやすい。
借地は、前提が所有権の実家と違うだけで、出口が閉じているわけではない。条文にどう書いてあるか、確認する場所はどこかを押さえたうえで、地主と同じ材料の上で話すところから始まる。
