空き家が行政に強制撤去されるまでの流れと費用請求

空き家が急に強制撤去されるのか、通知が届いてからどれだけ猶予があるのか。判断の材料は公開されている。
結論から言うと、代執行まで進むのは勧告と命令を無視した場合に限られる。平成27年から令和7年3月末までの代執行は全国で878件、請求額は一次資料の15件で約30万円から約2,000万円まで開く。
この記事の目次
「空き家だから」では強制撤去されない|5段階のどこにいるか
空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)は、空き家であること自体を撤去の理由にしていない。市町村が「特定空家等」と認定したうえで、助言・指導、勧告、命令と段階を踏み、それでも改善されないときにはじめて代執行(強制撤去)が可能になる(法第22条)。
国土交通省が令和7年12月25日に公表した施行状況調査(令和7年3月31日時点)では、平成27年の法施行からの累計で、助言・指導が42,768件、勧告が4,153件、代執行(略式代執行を含む)が878件だった。件数どうしの単純比較なので同一物件の重複はあるが、目安として、助言・指導まで進んだうちの約2%、勧告まで進んだうちの約2割が代執行に至っている計算になる(編集部で除算)。
ただしこの流れは、2023年12月の改正で入口が2つ手前に増えている。特定空家等になる前の「管理不全空家等」が新設されたためで、認定の基準は空き家の固定資産税が6倍になる条件|管理不全空家とはで整理している。
2023年12月の改正で、入口が特定空家等の手前に動いた
令和5年12月13日に施行された改正空家法は、そのまま放置すれば特定空家等になるおそれが大きい空き家を「管理不全空家等」とし、市町村が指導・勧告できるようにした(法第13条)。国土交通省のリーフレット「空家法」と「2023改正空家法」は、特定空家等だけでなく、勧告を受けた管理不全空家等の敷地も固定資産税の住宅用地特例が解除される、と明記している。
同じ施行状況調査によると、改正法の施行後から令和7年3月31日までに、管理不全空家等への指導は3,211件(185市区町村)、勧告は378件(40市区町村)。制度が動き出して1年3か月あまりでこの件数になっている。特定空家等になるのを待たずに、税の優遇が外れる段階が先に来るという設計だ。
もう一つの変更が緊急代執行だ。災害などで危険が差し迫っている場合、命令などの手続を経ずに措置を実施できる(法第22条第11項)。同じ調査では、施行後に緊急代執行が12件(10市町)実施されている。台風や地震のあとに一気に進む経路がある、という意味になる。
税額への影響は空き家の固定資産税が6倍になる条件と回避の順番にまとめた。ここで挙げた制度は2026年7月時点で確認したもので、年度によって運用が変わる。
勧告から強制撤去まで、実際にかかった期間
埼玉県のサイトで公開されている「行政代執行事例集」は、行政代執行の実績がある近隣都県の市区町村に平成30年10月にアンケートを行い、措置の日付をそのまま載せている。日付が揃っている3件を並べる。
| 物件 | 勧告 | 命令 | 戒告 | 代執行 | 撤去完了 |
|---|---|---|---|---|---|
| 木造2階・約40㎡ | H28.11.25 | H28.12.6 | H28.12.6 | H29.1.17開始 | H29.3.30 |
| 木造2階・33.87㎡ | H27.11.4 | H28.1.5 | H28.2.1 | H28.3.3 | H28.3.17 |
| 木造2階・約105.9㎡ | H29.12.6 | H29.12.18 | H30.1.9 | H30.1.22 | H30.3.15 |
勧告から撤去完了までは、この3件で約4か月から約1年4か月。戒告から代執行までの期間は、事例集の記載で28日、約1か月、約2か月と幅がある。「年度内に行政代執行を完了するため、全体スケジュールから履行期間を決定した」という自治体の回答もあり、行政側の予算年度に引きずられる面もある。
整理すると、命令が出てからの猶予は月単位であって年単位ではない。さらに緊急代執行に当たる場合は、この手順そのものが省略される。
請求される費用の実額|一次資料15件は約30万円から約2,000万円
同じ事例集には、撤去等に要した費用が金額のまま載っている。行政代執行6件と略式代執行9件を書き出す。
行政代執行(所有者が判明している場合)
| 撤去の内容 | 費用 |
|---|---|
| 木造2階・約40㎡・全部撤去(基礎も撤去) | 約2,000万円 |
| 全部撤去 | 約1,040万円 |
| 一部撤去(ごみ撤去+外壁・柱の修復ほか) | 422万2,800円 |
| 木造2階・約105.9㎡・全部撤去(基礎も撤去) | 290万円(税抜) |
| 木造2階・33.87㎡・除却+立木の伐採 | 185万円 |
| 一部撤去 | 約65万円 |
略式代執行(所有者を特定できない場合)
| 件 | 解体等の費用 |
|---|---|
| 1 | 622万6,200円 |
| 2 | 351万円 |
| 3 | 335万8,800円 |
| 4 | 159万8,400円 |
| 5 | 約145万円 |
| 6 | 129万6,000円 |
| 7 | 99万3,600円 |
| 8 | 88万4,751円 |
| 9 | 29万8,080円 |
15件の幅は約30万円から約2,000万円。建物の床面積より、残置物の量と撤去範囲(基礎まで撤去するか)のほうが金額を動かしている。最高額の事例は木造2階の約40㎡だが、敷地内に大量の残置物が堆積していた案件だ。
約1,040万円の事例は内訳が公開されていて、物件調査委託30万2千円、設計委託144万7千円、解体撤去工事867万2千円。解体工事以外に調査費と設計費が乗る構造がわかる。
金額はいずれも平成30年時点の回答で、現在の解体単価や残置物の処分単価はこれより上がっている可能性がある。相場としては一点で読まず、幅で見ておく。
自分で解体するより高くなりやすい理由
代執行の費用が膨らむ理由は、工事そのものより手続にある。事例集では、業者の選定方法が一般競争入札、指名競争入札、随意契約と分かれていて、所有者が相見積りを取って比べる余地はどこにもない。工期も行政のスケジュールで決まる。
加えて、建物の中に残された家財の扱いが乗る。事例集には「敷地内だけではなく建築物内にも大量の残置物が堆積していたため積算できなかった」「市区町村の施設の一部に保管した」といった回答があり、動産の搬出・運搬・保管の手間がそのまま費用側に積み上がる。
自分で手配すれば、複数社を比べて金額と工期を選べる。差が生まれるのはこの一点で、制度の問題ではない。
費用は税金と同じ強さで取り立てられる
代執行にかかった費用は、行政代執行法第5条により、実際に要した額と納期日を定めて文書で納付を命じられる。支払わない場合、同法第6条第1項で「代執行に要した費用は、国税滞納処分の例により、これを徴収することができる」とされ、第2項で行政庁は国税及び地方税に次ぐ順位の先取特権を持つ。国税庁の通達も、行政代執行法6条1項を「その例による滞納処分」の一つとして挙げている。
訴訟や判決を経ずに差押えと公売まで進める、ということだ。金融機関からの借入とは回収の強さが違う。事例集では納付期限を1か月とした自治体があり、「年度内に回収できなかった額は決算で収入未済額として報告している」という回答もある。放置して自然に消える債務ではない。
所有者が分からなくても撤去される(略式代執行)とその後の請求
所有者や相続人を特定できない場合、市町村は必要な措置を行うべき旨をあらかじめ公告したうえで、自ら措置を実施できる(法第22条第10項)。これが略式代執行だ。湧別町の説明では、略式代執行の費用は所有者を特定できないため行政が負担するが、執行後に所有者が判明した場合はその所有者が負担する、とされている。
回収の実務も一次資料に出ている。事例集には、略式代執行に要した費用を債権として、家庭裁判所に相続財産の管理人の選任を申し立て、選任された管理人が土地を売却し、その代金で全額回収できたという事例がある。別の事例では、敷地の価値が高く売却で回収できる見込みが高いことを、実施を決めた根拠に挙げている。
裏を返すと、土地に値が付く空き家ほど、費用は後から回収される。相続放棄をしたから無関係、という整理も自動的には成り立たない。相続放棄の効果と管理の責任は事情によって変わるので、そこは弁護士に確認する範囲になる。
段階別に、いま打てる手
自分がどの段階にいるかで、できることと残り時間が変わる。
| いまの状態 | 打てる手 |
|---|---|
| 通知は来ていない | 草木・瓦・塀など指摘されやすい箇所を直す。管理の委託、売却・活用の検討を先に始める |
| 管理不全空家等の指導 | 指摘箇所を修繕する。勧告前なら住宅用地特例は残っている |
| 管理不全空家等の勧告 | 住宅用地特例が外れる。措置を講じて認定の解除を求める |
| 特定空家等の助言・指導 | 改善の内容と時期を市町村に示す。解体費の見積りを取り始める |
| 特定空家等の勧告 | 住宅用地特例が外れる。解体か売却か、期限を切って決める |
| 命令 | 従わないと50万円以下の過料(法第30条第1項)。代執行の準備が始まる |
| 戒告・代執行令書 | 履行期限内に自分で実施すれば代執行は行われない。事例集では28日から約2か月 |
どの段階でも、措置を講じて状態が改善されれば次の段階へは進まない。国土交通省のリーフレットが示す流れも、悪化を止めれば止まる構造になっている。
なお、立入調査を拒み、妨げ、忌避した場合は20万円以下の過料の対象になる(法第30条第2項)。調査を断って時間を稼ぐ、という手は使えない。
強制撤去を待つ前に検討する3つの出口
回避策は、突き詰めると解体・売却・活用の3つに収れんする。どれを選ぶかは、土地に需要があるかどうかで決まる。
解体して更地にする
解体費用の一部を補助する自治体は多いが、金額と条件は自治体ごとに違い、着工後の申請は対象外になる制度が多い。申請の順番は空き家の解体補助金はいくら出る?条件と申請の順番で確認する。
建物ごと売る
老朽化していても、土地に需要があれば買い手が付く場合がある。更地にしてから売るか、古家付きの土地として売るかで、解体費の負担者と手取りが変わる。
更地にして使う・貸す
立地によっては、解体後に駐車場や資材置き場として貸したほうが、毎年の負担が軽くなることがある。更地にした後の使い道は、解体を発注する前に見ておく。
強制撤去されたあとに残るもの
代執行で建物が消えても、土地と、その土地にかかる固定資産税は残る。住宅用地特例は勧告の時点ですでに外れているので、建物が無くなったあともその水準の課税が続く。そこに代執行費用の債務が上乗せされる。撤去は終わりではなく、負担の形が変わるだけだ。
建物を消しても土地の負担は終わらない
編集部の運営者は、沖縄の傾斜地を相続して現在も保有している。建物はないが、固定資産税は年約7万円が毎年出ていく。相続したあと、売却、寄付、国庫帰属と出口を順に検証して、どれも成立しなかった結果としての保有継続だ。
建物を撤去すれば倒壊や管理の不安は消える。ただし土地の出口が無いままなら、毎年の支出はそのまま続く。解体の見積りを取るときに、更地にした後をどうするかまで一緒に決めたほうがいい、というのはこの実感からきている。
撤去後の税の扱いは空き家の固定資産税が6倍になる条件と回避の順番に整理した。
よくある疑問
何年放置したら強制撤去されますか
年数の基準はない。「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態」など、状態に該当するかで判断される。事例集の物件も、傾斜、外壁の剥離、瓦の落下、大量の残置物といった状態が認定の理由になっている。空き家になった年数ではなく、傷み方で決まる。
家の中の家財はどうなりますか
対応は自治体で分かれる。事例集には、立入調査で「無価値物」と判断して搬出も保管もしなかった例、庁舎の文書庫に施錠して保管した例、位牌などがあれば相続放棄済みの親族に引取りを打診するとした例がある。保管や処分に費用が発生すれば、それも請求の対象になりうる。
共有名義や相続人が複数いる場合、誰が払いますか
国土交通省近畿地方整備局の実務資料には、納付義務者が複数のときは連帯納付義務を課すことができると考え、義務者らに連帯して納付するよう命令した、納付命令書の送付後に一部の所有者から相続持分に応じた納付の相談があったが連帯納付義務であるため応じなかった、という自治体の対応例が載っている。持分の割合で自動的に分かれるとは限らない。
代執行の内容に納得できない場合は
戒告や代執行令書の通知文には、行政不服審査法に基づく不服申立てについての記載欄が設けられている(埼玉県の行政代執行マニュアルの様式)。期限があるので、通知が届いた時点で文面を確認する。
まだ通知は来ていないが不安な場合は
市町村の空き家担当課に相談できる。事例集を見る限り、代執行に至った案件はいずれも近隣からの通報や苦情が起点になっている。先に相談しておくほうが、選べる手は多い。
