空き家の3000万円特別控除|使える条件と必要書類

相続した実家をどう片づけるか決めきれないまま、年だけが過ぎていることがある。
空き家の3000万円特別控除は、昭和56年5月31日以前に建った一戸建てを、親が一人で住んだまま亡くなった場合に使える。売却益から最高3000万円を引ける制度で、期限は相続開始から3年目の年末と令和9年12月31日の早い方(2026年7月31日時点)。
この記事の目次
控除されるのは売値ではなく「利益」
正式名称は「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」。相続または遺贈で取得した被相続人居住用家屋またはその敷地等を、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売り、一定の要件に当てはまるときに、譲渡所得の金額から最高3000万円まで控除できる(国税庁 No.3306、2026年7月31日確認)。
最初に外しやすいのがここで、3000万円引けるのは売却代金ではなく譲渡所得、つまり利益の部分になる。譲渡所得は次の式で出す。
- 譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)
1500万円で売れて、取得費と譲渡費用を引いた利益が1200万円なら、控除で課税対象は0円になる。逆に利益が4000万円出ていれば、3000万円を引いた1000万円に税金がかかる。
制度の目的は税の優遇そのものではなく、旧耐震の空き家が放置されるのを止めることにある(国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置」)。だから条件が細かく、そして年度で動く。
使えるかどうかは6つの関門で決まる
要件は多いが、落ちるところはだいたい決まっている。先に全部並べる。ひとつでも×なら、そこで検討は終わる。
| 関門 | 満たすべき内容 |
|---|---|
| 誰が売るか | 相続または遺贈で被相続人居住用家屋・敷地等を取得した相続人 |
| どんな家か | 昭和56年5月31日以前に建築/区分所有建物登記がされていない |
| 誰が住んでいたか | 相続開始の直前に被相続人以外に居住していた人がいない |
| 相続後の使い方 | 事業の用・貸付けの用・居住の用に供していない |
| いつ売るか | 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ令和9年12月31日まで |
| いくらで・誰に売るか | 売却代金1億円以下/配偶者・親子など特別の関係がある人への売却でない |
いずれも国税庁 No.3306 に列挙されている要件(2026年7月31日確認)。以下、落ちやすい順に中身を開く。
家の条件:昭和56年5月31日と、マンションの壁
対象になるのは、被相続人が相続開始の直前に住んでいた家屋で、昭和56年5月31日以前に建築されたものに限られる(国税庁 No.3306)。この日付は旧耐震基準の区切りで、国土交通省もこの特例を旧耐震の空き家対策として位置づけている。
建築年月日は登記事項証明書の表題部で確認できる。増改築を重ねていても、新築時の建築時期で判定するのが原則になるため、リフォーム年ではなく元の建築日を見る。
区分所有建物登記がされていると使えない
もうひとつの壁が区分所有。区分所有建物登記がされている建物は対象外なので、分譲マンションの一室は基本的にこの特例に乗らない。一戸建てでも、二世帯住宅を区分登記していると同じ理由で外れることがある。
同居していた人がいると外れる
相続開始の直前に、被相続人以外にその家屋に住んでいた人がいないことも要件になる。母と同居していた父が先に亡くなり、父の持分を相続して売る、という形だと、父の死亡時点で母が住んでいるため、父の相続では要件を満たさない。順番を入れ替えられない以上、この点は登記や分割の設計より先に確認しておく必要がある。
親が老人ホームにいた場合の扱い
亡くなったのが施設で、実家は空き家のままだった。この形は多いが、条件付きで対象になる。国税庁 No.3307「被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋」が要件を定めている(2026年7月31日確認)。
大きく2段構えになっている。
- 介護保険法第19条第1項の要介護認定または同条第2項の要支援認定を受けていた被相続人が、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、サービス付き高齢者向け住宅などに入居していたこと
- その事由で家屋が居住の用に供されなくなった時から相続の開始の直前まで、引き続きその家屋が被相続人の物品の保管その他の用に供されていて、事業の用・貸付けの用・被相続人以外の者の居住の用に供されたことがないこと
要介護認定の有無が入口になるので、認定を受けないまま入所していた場合は要件から外れる。また、空き家にしておくのがもったいないと考えて誰かに貸したり、親族を住まわせたりしていると、その時点で②が崩れる。物置として使っていたのは問題にならない。
耐震改修するか、取り壊すか(令和6年からの選択肢)
昭和56年5月31日以前の建物なので、そのままでは現行の耐震基準に適合していないことが多い。この特例は、家屋を売るなら耐震基準に適合させること、適合させないなら取り壊して敷地だけを売ることを求めている。
令和5年度税制改正で、ここが緩んだ。令和6年1月1日以後の譲渡については、譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に、家屋が一定の耐震基準を満たすこととなった場合、または家屋の全部の取壊し等が行われた場合も対象になる(国税庁 No.3306、国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置」、2026年7月31日確認)。
改正前は、売る前に売主が耐震改修または解体を終えている必要があった。買主が解体前提で買う場合でも、売主が先に費用を出して更地にしなければならなかったということになる。今は、買主が引き渡し後に耐震改修または解体をしても、翌年2月15日までに終わっていれば要件を満たせる。
実務上は、売買契約書に解体または耐震改修の実施と期限を書き込んでおくかどうかで、後の証明のしやすさが変わる。市区町村に確認書を申請する際も、譲渡後に解体するパターンは専用の様式(横浜市の場合は別記様式1-3)が用意されている。
どちらを選ぶかは、解体費用を自分で出すか、売値を下げて買主に任せるかの比較になる。解体費用の目安は建物の構造と重機が入るかどうかで大きく動くため、金額は先に見積もりで押さえておきたい。
費用の内訳は 空き家の解体費用の相場|坪単価と追加費用の内訳 に分けてまとめてある。
期限は二重。実質の締切は令和9年12月31日
期限の勘違いが、この特例でいちばん取り返しがつかない。締切は2つあり、早く来るほうで打ち切られる。
- 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで
- 平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡であること
いずれも国税庁 No.3306 に明記された要件(2026年7月31日確認)。制度の適用期限は令和5年度税制改正で令和9年12月31日まで延長されている(国土交通省、宇都宮市の案内も同旨)。
2026年7月31日時点の条件で、相続開始年ごとに実際の締切を並べるとこうなる。
| 相続開始した年 | 3年ルールの期限 | 実際の締切 |
|---|---|---|
| 2023年(令和5年) | 2026年12月31日 | 2026年12月31日 |
| 2024年(令和6年) | 2027年12月31日 | 2027年12月31日 |
| 2025年(令和7年) | 2028年12月31日 | 2027年12月31日 |
| 2026年(令和8年) | 2029年12月31日 | 2027年12月31日 |
2025年以降に相続が起きた場合、3年あるつもりでいると足りない。制度側の期限が先に来るからで、この先の税制改正で再延長される可能性はあるが、確定していないものを前提に予定を組むことはできない。
期限は譲渡の日で見る。売買契約から引き渡しまで数か月かかること、買主に解体を任せるなら翌年2月15日までに完了させる必要があることを踏まえると、締切の1年前には査定と方針決定を終えておく計算になる。
売却代金1億円のライン
売却代金が1億円を超えると、この特例は使えない。単純な1回の売買だけを見るのではなく、合算して判定するところが厄介になる。
国税庁 No.3306 は、相続の時からこの特例の適用を受けて売却した日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に、分割して売却した部分や他の相続人が売却した部分も含めた売却代金で1億円以下かどうかを判定する、としている。
つまり次のようなケースが引っかかる。
- 敷地の一部を先に売り、残りを後から売った
- 兄弟で共有していて、それぞれ別の時期に自分の持分を売った
- 家屋と一体で使っていた庭や畑の部分を、別途切り離して売った
いったん特例を受けた後で合計が1億円を超えた場合は、その売却の日から4か月以内に修正申告書の提出と納税が必要になる(同)。後から追いかけてくる仕組みなので、分割売却や持分の切り売りを考えているなら、総額の見込みを先に出しておく。
相続人が3人以上だと2000万円に下がる
令和6年1月1日以後に行う譲渡で、被相続人居住用家屋および敷地等を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上である場合、特別控除額は1人あたり2000万円になる(国税庁 No.3306、2026年7月31日確認。横浜市、調布市、北九州市の案内も同じ扱いを示している)。
読み違えやすいのは、この人数が「相続人全員の数」ではなく「その家屋と敷地を取得した相続人の数」だという点になる。
| その家屋・敷地を取得した相続人 | 1人あたりの控除額 | 合計 |
|---|---|---|
| 1人 | 3000万円 | 3000万円 |
| 2人 | 3000万円 | 6000万円 |
| 3人 | 2000万円 | 6000万円 |
| 4人 | 2000万円 | 8000万円 |
控除は取得した相続人ごとに判定されるため、要件を満たす人が複数いれば人数分使える。ただし3人で取得した場合の合計は2人のときと変わらない。遺産分割で誰が実家を取得するかを決める段階で効いてくる話になるが、分割の判断そのものは編集部の領分ではない。税額まで含めた比較は税理士に当たってほしい。
実際にいくら変わるのか
控除の効き方を、税率まで含めて追う。
相続した土地建物の取得費と取得の時期は、被相続人のものを引き継ぐ(国税庁 No.3270)。親が取得した時から、売った年の1月1日までの所有期間で長期か短期かを判定するため、親が長く持っていた実家は長期譲渡所得になることが多い。譲渡した年の1月1日時点で所有期間5年超なら長期で、税率は課税長期譲渡所得金額に対して所得税15%、住民税5%、これに所得税額の2.1%の復興特別所得税が加わる(国税庁 No.3208、令和19年まで)。
取得費が分からないときは、売った金額の5%相当額を取得費とすることができる(国税庁 No.3258)。親が昭和に建てた家だと契約書が残っていないことも多く、この概算取得費で計算せざるを得ないケースが出てくる。
2500万円で売れ、取得費が不明、譲渡費用が仲介手数料などで100万円だった場合で並べる。
| 項目 | 特例なし | 特例あり(3000万円控除) |
|---|---|---|
| 譲渡価額 | 2500万円 | 2500万円 |
| 概算取得費(5%) | 125万円 | 125万円 |
| 譲渡費用 | 100万円 | 100万円 |
| 譲渡所得 | 2275万円 | 2275万円 |
| 特別控除 | 0円 | 2275万円(3000万円が上限) |
| 課税対象 | 2275万円 | 0円 |
この条件だと課税対象が消える。取得費が不明なほど譲渡所得は膨らむので、控除の効き目もその分大きくなるという関係になる。実際の税額は他の所得や控除の状況で変わるため、金額の確定は税務署か税理士に確認する。編集部は士業ではないので、個別の税額計算はしない。
手続きは2段階。確認書を取ってから確定申告
この特例は自動では付かない。市区町村で書類を1枚取り、そのうえで確定申告する。
1. 被相続人居住用家屋等確認書をもらう
家屋の所在地の市区町村に申請する。横浜市では申請の様式が3つに分かれていて、家屋と敷地を譲渡する場合が別記様式1-1、家屋を取り壊した後に敷地のみ譲渡する場合が1-2、買主が譲渡後に耐震リフォームまたは取壊しをする場合が1-3となっている(横浜市住宅政策課、2026年7月31日確認)。
添付書類は自治体ごとに一覧表が用意されており、小平市の案内では除票住民票、宅建業者による広告関連資料、電気・水道・ガスの閉栓証明書などが挙がっている。空き家であったこと、貸したり住んだりしていないことを外形から示す書類がそろえられている。
交付までの日数は自治体で幅があり、北九州市は数日から10日程度、高崎市は申請から2週間程度としている(各市の案内、2026年7月31日確認)。確定申告期の直前は混み合うため、売買契約の段階で自治体の窓口に必要書類を確認しておくほうが安全になる。
注意点として、この確認書は空き家であったことを確認する書類であって、特別控除の適用を確約するものではないと、北九州市も高崎市も明記している。
2. 確定申告する
売った年の翌年に確定申告する。国税庁 No.3306 が挙げる添付書類は、譲渡所得の内訳書、登記事項証明書、市区町村長発行の被相続人居住用家屋等確認書、耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書の写し、売買契約書の写しなど。
税額が0円になる場合でも申告は必要になる。控除を使った結果として0円になるのであって、申告しなければ控除は適用されない。
他の特例との関係。取得費加算とは選べない
この特例は、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(取得費加算)や、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないことが要件になっている(国税庁 No.3306)。つまり取得費加算とは併用できず、どちらか一方を選ぶことになる。
相続税を多く納めた人ほど取得費加算の効果が大きくなるため、相続税額と譲渡所得の大きさによって有利不利が逆転する。税理士法人チェスターの解説でも、相続税の負担が大きいケースでは取得費加算のほうが有利になり得ると整理されている(2026年7月31日確認)。
取得費加算そのものの仕組みと3年10か月の期限は 相続した土地を売る税金|取得費加算と3年10か月の期限 にまとめてある。
もうひとつ紛らわしいのが、自宅を売ったときの居住用財産の3000万円特別控除との関係になる。別物の特例で、同じ年に自分の自宅と相続した空き家の両方を売った場合、二つを合わせて3000万円が上限とされている(税理士法人チェスター、ベンチャーサポート相続税理士法人の解説、2026年7月31日確認)。6000万円にはならない。
相続税側の小規模宅地等の特例は所得税ではなく相続税の制度なので、こちらとは別の話になる。ただし小規模宅地等の特例を使うには相続人が居住や事業を継続する要件が絡むことがあり、空き家として売る前提と噛み合わない場合がある。両方の税目にまたがるため、判断は税理士に渡すのが早い。
売却時の税金全体の流れは 実家を売ったときの税金|3000万円控除で0円になる条件 で整理している。
落としやすい点と、確認する順番
要件を満たしていたのに自分で壊してしまう、という形の失敗がある。よくあるのは次の4つ。
- 相続後に貸した。空けておくのがもったいないと人に貸すと、貸付けの用に供したことになり要件から外れる
- 更地にしてから駐車場にした。解体自体は認められるが、更地を貸駐車場などに使うと同じ理由で外れる
- 親族に売った。配偶者、親子、生計を一にする親族など特別の関係がある人への売却は対象外
- 税金が0円だから申告しなかった。申告して初めて控除が適用される
確認する順番としては、建築年月日と区分所有の有無で入口を判定し、相続開始直前の同居者と相続後の使い方を確認し、そこを通ってから期限と1億円のラインを見る。この4段階を抜けたら、市区町村の窓口に必要書類を聞き、並行して査定と解体費用の見積もりを取る流れになる。
要件の解釈や税額の計算は編集部の範囲外になる。とくに数次相続、共有、老人ホーム入所が絡む場合は、登記の順番ひとつで適用の可否が変わることがあるため、売買契約を結ぶ前に税理士と管轄の税務署に当たっておく。
要件の当てはまりと税額は専門家に確認する
数次相続や共有が絡むと、この特例が使えるかどうかは書面の作り方で変わることがある。売る前に、相続と譲渡所得の両方を見られる専門家に当てておくと手戻りが減る。
無料で相続税の相談をする制度の内容は2026年7月31日時点で国税庁および国土交通省の公表資料を確認したもの。適用期限や控除額は税制改正で変わるため、動くときにもう一度一次情報を見てほしい。
