借地権の名義変更|相続で地主の承諾は要るのか
親が借りていた土地の上に実家が建っている。名義をどう動かすのかは、相続で最初に引っかかる場所です。
結論から書くと、相続で借地権を引き継ぐのに地主の承諾は要りません(民法896条)。承諾料も原則かかりません。実際に動かすのは建物の登記で、2024年4月から3年以内の申請が義務になっています。
この記事の目次
相続なら地主の承諾は要らない(条文の位置)
借地権は、建物を所有する目的で土地を借りる地上権または賃借権です(借地借家法2条1号)。この権利を相続で引き継ぐとき、地主の承諾は要りません。民法896条が「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めているためです。借地権は被相続人の一身に専属する権利ではないので、ただし書の例外にも当たりません。
承諾が要るのは、借りている人が自分の意思で権利を他人に渡すときです。民法612条は「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない」と定め、違反した場合に賃貸人は契約を解除できるとしています。相続は譲渡でも転貸でもないため、この条文の適用場面ではありません。承諾が要らない以上、承諾の対価である承諾料(名義書換料・譲渡承諾料)を相続だけを理由に支払う法的根拠も、原則としてありません。
ここで言っているのは条文がどうなっているかであって、地主が請求してくること自体は現実に起きます。請求されたときの扱いは後の章で分けて書きます。
借地に建つ実家を相続した直後に確かめる項目は借地に建つ実家を相続したら|最初に確かめる3つと4つの出口にまとめています。
名義変更の正体は「建物の相続登記」
借地権の名義変更と呼ばれている手続きは、多くの場合、土地の登記を触るものではありません。借地権そのものを土地の登記簿に登記するには地主の協力が必要で、実務上その登記がされている例は多くありません。
登記がなくても借地権を主張できる仕組みが用意されているからです。借地借家法10条1項は「借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる」と定めています。つまり、建物の登記名義が自分になっていれば、土地が第三者に売られても借地権を主張できます。
そのため、相続で動かすのは建物の所有権移転登記です。ここを放置すると、対抗力の前提になる建物登記の名義が亡くなった人のまま残ります。
建物が未登記のとき
古い実家では建物が登記されていないことがあります。その場合は表題登記から入る必要があり、対抗力の話も所有権保存登記を経て初めて整います。建物が滅失した場合の掲示による2年間の猶予も、同法10条2項に定めがあります。
相続登記は3年以内が義務(2024年4月1日から)
法務省の説明によると、相続登記の申請義務化は令和6年(2024年)4月1日から始まりました。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をする必要があり、正当な理由なく怠った場合の過料は10万円以下の範囲内で裁判所が決定します(2026年8月6日確認)。
過去の相続も対象です。令和6年4月1日より前に相続したことを知っていた不動産で相続登記がされていないものは、令和9年(2027年)3月31日までに登記する必要があるとされています。借地上の建物も不動産なので、この義務の外にはありません。
誰が継ぐか決まらないときの受け皿として、相続人申告登記があります。登記簿上の所有者が亡くなったことと、自分がその相続人であることを期限内に登記官へ申し出れば義務を履行したものとして扱われる制度で、相続人が単独で申し出ることもできます。分割協議が長引きそうなら、まずここで期限を止める選択肢があります。
手続きの順番と、地主への通知の出し方
順番は次のとおりです。
- 建物の登記事項証明書を取り、名義と、土地に借地権の登記があるかを確認する
- 土地賃貸借契約書、地代の領収書や振込記録、過去の承諾書を集める
- 誰が建物と借地権を引き継ぐかを決める(遺言があればそれに従う。無ければ遺産分割協議)
- 戸籍一式・遺産分割協議書・印鑑証明書などを揃えて法務局に相続登記を申請する
- 登記が終わったら地主に書面で通知し、地代の振込名義を変更する
相続人が複数いる間、相続財産は共有になります(民法898条1項)。共有のまま置くと、建て替えも売却も全員の同意が要る状態が続きます。誰か一人に寄せるかどうかは、この段階で決める話です。
地主への通知は法律上の義務ではありませんが、書面で出しておく実務上の理由があります。借地関係は数十年単位で続き、将来の更新や建て替えの承諾で必ず相手方と向き合うためです。通知には、被相続人の氏名と死亡日、建物と借地権を引き継いだ相続人の氏名と連絡先、地代の振込名義の変更予定を書き、控えを残します。承諾を求める文面ではなく、相続によって承継した事実の通知である、という形にします。
契約書の書き換えについても、義務ではありません。作り直す場合は、新しい契約を結ぶのではなく、当事者の表示だけを変える形か、覚書で承継を確認する形かで意味が変わります。従前の契約条件がそのまま続くのかどうかを文面で確かめてから署名してください。
費用は登録免許税と司法書士報酬が中心
相続による建物の所有権移転登記の登録免許税は、国税庁の税額表で「相続又は法人の合併」が不動産の価額の1000分の4(0.4%)とされています。売買や競売による移転は1000分の20です(2026年8月6日確認)。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 登録免許税(建物・相続) | 固定資産税評価額の0.4% |
| 戸籍・住民票・評価証明書などの取得費 | 数千円から1万円台 |
| 司法書士報酬 | 事務所により幅がある。数万円から十数万円で示されることが多い |
司法書士報酬は自由化されていて一律の基準がありません。相続人の数、戸籍の収集範囲、未登記建物の有無で変わるので、見積もりを取って比べる前提で考えてください。当サイトは士業ではないので、あなたの案件でいくらになるかは答えられません。
建物名義の全体的な流れは実家の名義変更の手順と費用|生前と相続後の違いで扱っています。
それでも承諾料を請求されたとき
相続を理由に名義書換料や更新料を求められる相談は実際にあります。条文の側から見れば、相続による承継は民法612条の譲渡ではないので、承諾の対価を払う根拠がありません。立ち退きを求められても同じです。
ただし、払うかどうかは法律論だけで決まりません。この先も同じ地主と数十年付き合い、建て替えや売却のたびに承諾が必要になる関係です。金額が小さければ関係維持のために応じる判断もあり得ます。編集部として勧めているわけではなく、法的義務と交渉判断は別の層だ、という整理です。
更新料には決着していない部分がある
更新料の支払義務についても、契約書に定めがない場合の扱いは争いのある論点です。借地借家法には更新料の支払いを命じる条文がありません。契約書に定めがあるかどうか、これまで払ってきた経緯があるかどうかで話が変わるため、一律の答えを書ける領域ではありません。契約書の該当条項と過去の支払記録を持って弁護士に確認する種類の問題です。
金額の考え方や場面ごとの整理は借地の承諾料の相場|何を頼むときにいくら払うかにまとめています。
相続ではないケース(譲渡・遺贈・生前贈与)は扱いが逆になる
同じ「名義を変える」でも、原因が相続でなければ民法612条の世界に入ります。
- 第三者への売却:借地権付き建物を売れば借地権も移る。地主の承諾が必要
- 生前贈与:親から子でも、法律上は譲渡。地主の承諾が必要
- 特定遺贈:法定相続人以外の人に特定の財産を遺贈する場合は、譲渡と同じ扱いになるとされる
- 包括遺贈:包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)
承諾の対価として求められる名義書換料は、借地権価格の10%程度が相場と示されることが多い費用です。借地権価格は更地価格に借地権割合を掛けて出します。この割合は国税庁が路線価図・評価倍率表で地域ごとに定めており、記号でA:90%、B:80%、C:70%、D:60%、E:50%、F:40%、G:30%と表示されています(2026年8月6日確認)。同じ土地でも地域の記号が違えば借地権の評価が変わるので、一点の金額で語れる費用ではありません。
地主が承諾しない場合の受け皿は裁判所です。借地借家法19条1項は、第三者が賃借権を取得しても地主に不利となるおそれがないのに承諾しないとき、裁判所が借地権者の申立てにより承諾に代わる許可を与えることができると定めています。同条1項後段は、その許可を財産上の給付に係らしめることができるとも定めていて、実務で言う借地非訟はこの手続きです。競売や公売で建物を取得した第三者については20条に別の定めがあります。
旧借地法か借地借家法か(平成4年8月1日が分かれ目)
実家の借地契約は古いことが多く、どちらの法律が効くかで前提が変わります。借地借家法は平成3年10月に公布され、平成4年(1992年)8月1日に施行されました(国土交通省の解説による)。施行と同時に、それまでの借地法・借家法・建物保護に関する法律は廃止されています(同法附則2条)。
ややこしいのは、廃止されたはずの旧法が今も効いている部分があることです。附則4条は「この法律の規定は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する」と定めていますが、その「特別の定め」が主要な場面に置かれています。
| 場面 | 施行前に設定された借地権の扱い |
|---|---|
| 契約の更新 | なお従前の例による(附則6条) |
| 建物の朽廃による消滅 | なお従前の例による(附則5条) |
| 建物滅失後の再築による期間の延長 | なお従前の例による(附則7条1項)。8条は適用しない(同2項) |
| 建物買取請求権 | 13条2項・3項は適用しない(附則9条) |
つまり、平成4年7月31日以前に設定された借地権については、更新まわりは今も旧法の考え方で動きます。旧法では建物が堅固か非堅固かで存続期間の枠組みが分かれていました。年数は契約書の記載と旧法の条文で確認する必要があるので、ここは記憶で判断せず、契約書を持って専門家に当ててください。
平成4年8月1日以後に設定された借地権
存続期間は30年で、契約でこれより長く定めればその期間になります(3条)。更新後の期間は、最初の更新が20年、その後は10年です(4条)。更新請求があったとき、建物がある場合に限り従前と同一条件で更新したものとみなされ、地主が遅滞なく異議を述べたときは別(5条1項)。その異議には正当の事由が必要で、双方の土地使用の必要性、従前の経過、利用状況、立退料の申出などを考慮して判断されます(6条)。これらに反する特約で借地権者に不利なものは無効です(9条)。
建物買取請求権は旧契約にも及ぶ
更新がないまま存続期間が満了したとき、借地借家法13条1項は「借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる」と定めています。更地にして返せと言われる場面で、建物を時価で買い取れと請求できる仕組みです。
附則9条が適用外にしているのは13条2項と3項であって、1項ではありません。2項は代金の支払いに期限を許与する裁判所の権限、3項は転借地権者への準用です。附則4条本文が施行前に生じた事項にも新法を適用すると定めている以上、1項の請求権自体は古い契約でも働くという構造になります。
もう一つ、地主が譲渡や転貸を承諾しない場面では、借地上の建物を取得した第三者の側から時価での買取りを請求できる規定もあります(14条)。
時価がいくらになるか、あなたの契約でこの請求が通るかは、条文だけで決まりません。ここは弁護士と不動産鑑定の領域です。
親が生きているうちに名義を動かすときの税務
実家じまいの相談で多いのが、親が借地権者のまま子が建て替える、あるいは子が地主から底地を買い取る、という動きです。ここは相続とは別に、贈与税の論点が立ちます。
国税庁の通達「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(直資2-189、昭和48年11月1日。一部改正 令和3年4月1日課資2-2)が扱っています。
- 借地権者から土地を無償で借りて建物を建てた場合、その使用権の価額は零として扱う。ただし使用貸借に該当することを、借受者・借地権者・土地所有者で確認する(通達2)。この確認には別紙様式1「借地権の使用貸借に関する確認書」を用いる
- 借地権の目的となっている土地を借地権者以外の者が取得し、地代の授受が行われないこととなった場合、その土地の取得者は借地権者から借地権の贈与を受けたものとして取り扱う(通達5)。連署による「借地権者としての地位を放棄していない」旨の申出書を所轄税務署長に提出したときは、この限りでないとされている
- その申出書は別紙様式2「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を用いる
子が底地を買って親に地代を払わせなくなった、というよくある流れが、書類を出さないまま進むと借地権の贈与として扱われ得る、という話です(2026年8月6日確認)。手続きの名称と様式まで国税庁のページに出ているので、該当しそうなら税務署または税理士に当ててください。当サイトでは個別の税額計算はしません。
相続税の側では、借地権も課税対象の財産です。借地権の価額は、その土地の自用地としての価額に借地権割合を掛けて求めます(国税庁 No.4611 借地権の評価)。小規模宅地等の特例は「土地または土地の上に存する権利」を対象にしていて、特定居住用宅地等は330平方メートルまで80%減額とされていますが、要件は取得者ごとに異なります(国税庁 No.4124、2026年8月6日確認)。
借地権の評価と申告の要否を確認する
借地権が相続財産に含まれると、評価も申告の要否も自用地とは別の計算になります。数字を自分で組み立てる前に、無料の相談枠で前提を確かめておく方法があります。
無料で相続税の相談をする名義を整えたあとに残る判断
登記と通知が終わっても、借地の実家は持ち続けるか手放すかの判断が残ります。取り得る方向は限られています。
- 住む、または貸す。地代を払い続ける前提で建物を維持する
- 借地権付き建物として第三者に売る。地主の承諾か、19条の裁判所の許可が要る
- 地主に借地権を買い取ってもらう
- 地主から底地を買い取って所有権にまとめる
- 期間満了で更新がないときに、13条1項で建物の買取りを請求する
どれを選ぶにしても、共通して先にやることは同じです。契約書の現物を確保し、設定日が平成4年8月1日より前か後かを確定させ、地代の支払い記録を揃え、建物の登記名義を生きている人に直す。この4つが済んでいないと、どの出口の交渉に入っても足元が固まりません。
契約書が見つからない場合は、地代の領収書や振込記録、固定資産税の課税明細、過去に地主とやり取りした書面を集めるところから始めます。契約書がないこと自体で借地権が消えるわけではありませんが、期間と条件を主張する材料が減ります。
