実家を残す場合のリフォーム費用と、貸すという選択

実家を残すかどうかの判断は、見積書より先に、残したあとに誰が使うかで決まる。使い道が違うと、同じ工事でも回収の経路と使える制度が変わる。
国の調査では、実際に払われたリフォーム資金は平均154万円、中央値48万円だった。工事の範囲は、住む・貸す・売るのどれで回収するかを決めてから逆算する。
この記事の目次
残したあとの使い道で、同じ工事の意味が変わる
実家のリフォームを調べると、費用相場の表がすぐ出てくる。ただし、その金額を払うかどうかを決めているのは工事の内容ではない。工事のあとに誰がその家を使うかだ。使い道が3つに分かれ、それぞれ回収の経路と、使える制度が違う。
| 残したあとの使い道 | 工事費の回収経路 | 国のリフォーム減税 | 相続した空き家の3000万円特別控除 |
|---|---|---|---|
| 自分または親が住む | 住む価値そのもの。現金では戻らない | 対象になりうる(自ら居住する住宅が条件) | 相続後に住むと使えない |
| 貸す | 家賃。回収年数で測れる | 対象外(賃貸住宅は対象にならない) | 相続後に貸すと使えない |
| 売る | 売却代金。工事費がそのまま乗るとは限らない | 対象外 | 要件を満たせば使える |
リフォーム促進税制と固定資産税の減額措置は、自らが居住する住宅に一定のリフォームを行った場合の制度で、賃貸住宅は対象にならない(国土交通省・住宅をリフォームした場合に使える減税制度について、2026年7月31日確認)。相続した家の3000万円特別控除は、相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないことが要件になっている(国税庁・No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例、2026年7月31日確認)。
順番が逆になる。使い道が決まらないうちに見積もりを取ると、どの工事を残してどれを削るかの基準が無いまま、業者の提案どおりの範囲になりやすい。使い道を先に置くと、削れる工事と削れない工事が分かれる。
実際に払われている金額は、平均154万円で中央値48万円
費用の話に入る前に、世の中で実際に行われているリフォームの規模を見ておく。国土交通省の令和6年度住宅市場動向調査は、令和5年度中にリフォームを実施した世帯を対象に、金額と内容を調べている。
| 項目 | 調査結果 |
|---|---|
| リフォーム資金の平均値 | 154万円 |
| リフォーム資金の中央値 | 48万円 |
| 自己資金の平均と自己資金比率 | 132万円・85.5% |
| リフォームした住宅の平均築後年数 | 29.5年 |
| 工事期間 | 1週間以内が63.6%、1か月以内が14.0% |
| 動機(複数回答) | 住宅がいたんだり汚れたりしていた32.1%、家を長持ちさせるため21.7%、台所や浴室などの設備が不十分だった19.4% |
| 内容(複数回答) | 冷暖房設備等の変更34.2%、住宅内の設備の改善・変更32.9%、住宅外の改善・変更24.7% |
(国土交通省・令和6年度住宅市場動向調査、報告書は令和7年6月公表。リフォーム住宅の調査地域は首都圏、調査票回収数569、2026年7月31日確認)
中央値が48万円で、工事期間の6割強が1週間以内という分布は、多くの世帯が設備の交換や部分的な補修で止めているという意味になる。500万円から2500万円という数字は、間取りまで動かすフルリフォームの価格帯で、実際に選ばれている中心ではない。あなたの実家がどちらの列に入るのかを、最初に決めることになる。
住める状態に戻すまでの費用は、幅のまま置いておく
部位ごとの金額は、公的な統計が無い。工事の範囲と建物の状態で動くため、事業者が公表している価格帯を幅のまま並べておく。見積書が届いたときに、桁が合っているかを確かめるための目盛りとして使う。
| 工事 | 公表されている価格帯の例 |
|---|---|
| 内窓の設置 | 約8万円から12万円 |
| 戸建て延床30坪の断熱工事 | 約100万円から150万円 |
| 耐震補強(筋交いの補強) | 約100万円から150万円 |
| システムキッチンの交換 | 約80万円から130万円 |
| システムバスの交換 | 約90万円から130万円 |
| 屋根の葺き替え | 約120万円から160万円 |
| 外壁の塗り替え | 約60万円から100万円 |
| 手すりの設置 | 約3万円から5万円 |
| 間取り変更を含むフルリフォーム | 約500万円から2500万円 |
(ホームプロ・実家のリフォームで知っておきたい7つのこと/ミサワリフォーム関東・実家リフォームは500万・1,000万でどこまでできる?、いずれもリフォーム事業者が公表している目安。2026年7月31日確認)
幅が広いのは、同じ名前の工事でも下地からやり直すかどうかで金額が変わるためだ。長く空いていた家では、給排水管と電気配線の状態が総額を決める。見た目に出ない部分なので、見積書に含まれているかを項目名で確かめておく。
貸すなら、工事費を家賃で割って回収年数を出す
貸す判断は、感触ではなく割り算で出せる。工事費を、年間の手取り家賃で割る。手取りというのは、家賃から固定資産税と火災保険料、管理を委託する場合の手数料、修繕の積立てを引いたあとの金額をいう。
| 工事費 | 手取り家賃が月5万円 | 手取り家賃が月7万円 |
|---|---|---|
| 50万円 | 約0.8年 | 約0.6年 |
| 150万円 | 約2.5年 | 約1.8年 |
| 500万円 | 約8.3年 | 約6.0年 |
| 1000万円 | 約16.7年 | 約11.9年 |
この年数は、満室で回り続けた場合の最短値になる。空室の月と、入退去のたびに出る原状回復費が入れば、実際はこれより延びる。管理委託の手数料は契約ごとに違うので、率を仮定せず書面で確かめてから収支に入れる。
金額の大きい工事ほど、判断は貸すか売るかの二択に寄っていく。1000万円の工事を月7万円で回収するには12年近くかかり、その間に設備の二巡目が来る。工事の範囲と家賃の水準は、地域の募集事例を見てから決めることになる。貸す側の準備と収支の詳しい手順は実家を賃貸に出す場合の準備と収支の目安に分けて書いた。
貸す前に、その土地と家がいくらで回るのかを見る
使わない土地や家の活用プランと収支の試算を、複数社から無料で取り寄せられます。貸すと決める前に、家賃の見込みと初期費用を並べた紙を手元に置いておくと、工事の範囲を決めやすくなります。
無料で活用プランを取り寄せる貸した時点で、相続した空き家の3000万円控除は消える
ここが、リフォームして貸すという選択のいちばん大きな分岐になる。相続した実家を売るときに使える3000万円の特別控除は、相続の時から譲渡の時までのあいだ、事業の用、貸付けの用、居住の用のいずれにも供されていないことが要件になっている。一度でも貸せば、あとで売るときにこの控除は使えない。
控除の主な要件を並べる。
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
- 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 売却代金が1億円以下であること
- 相続の時から譲渡の時まで、事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと
- 譲渡の時において一定の耐震基準を満たすこと。または家屋を取り壊して売ること
- 令和6年1月1日以後の譲渡では、譲渡の翌年2月15日までに買主が耐震改修または取壊しを行った場合も対象になる
- 適用期間は平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡
- 令和6年1月1日以後の譲渡で、家屋と敷地を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上である場合は2000万円まで
(国税庁・No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例、2026年7月31日確認)
数年だけ貸してから売る、という組み立ては、この要件に当たるかどうかで手取りが大きく変わる。控除が使えるかどうかの判定と税額の計算は税理士の領域なので、貸し出しの契約を結ぶ前に、控除の適用可否を含めて確認しておく。控除そのものの流れは実家を売ったときの税金と3000万円控除で0円になる条件に整理した。
売る前提なら、直すべきは内装ではない
先に売ると決めているなら、費用をかける先が変わる。3000万円の特別控除が見ているのは、家がきれいかどうかではなく、耐震基準を満たすか、取り壊されるかのどちらかだ。壁紙と設備を新しくしても、この要件には近づかない。
売却額の側でも、工事費がそのまま上乗せされるとは限らない。買い手が古い家を土地として見ている地域では、内装の新しさが値段に反映されにくい。判断の順番としては、次のようになる。
- 現状のまま売った場合の価格帯を、複数社から取る
- 取り壊して更地にした場合の価格帯と、解体費を並べる
- 耐震改修を入れた場合の費用と、控除が使えるかどうかを確かめる
- 3つを比べて、手取りがいちばん残る形を選ぶ
この比較を工事の前にやっておくと、直してから売れずに値下げする、という順番を避けられる。売る手順と相場の調べ方は実家を売る手順と相場の調べ方にまとめた。
工事の見積もりより先に、現状の価格帯を知る
実家の売却査定を複数社に依頼できます。相場を知るだけの利用でも問題ありません。直すか売るかを決める材料として、現状のままの価格帯を先に手元に置いておくと比べられます。
無料で査定額を調べる親名義のまま子が費用を出すと、贈与になる
親が住んでいる実家に子が工事費を出す場合、名義の扱いを先に決めておく。親名義の建物に子が増築した場合、増築部分は建物の所有者である親のものになる。親が子に対価を支払わないときは、親が子から増築資金相当額の利益を受けたものとして贈与税が課税される(国税庁・No.4557 親名義の建物に子供が増築したとき、2026年7月31日確認)。
回避の形は公表されている。国税庁の質疑応答事例では、子が支出した増築費用に見合う分だけ旧家屋の持分を親から子へ時価で譲渡し、その代金と増築費用の負担分を相殺する方法について、贈与税の課税関係は生じないとしている。ただし同じ事例に注記があり、親子間の譲渡であるため、親側では居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例等が使えない(国税庁・父所有の家屋に子が増築した場合の贈与税の課税関係、令和7年8月1日現在の法令等に基づく。2026年7月31日確認)。
2026年7月31日時点で使える公的支援
制度は年度で入れ替わる。ここに書くのは2026年7月31日に各公式サイトで確認した内容で、実際に動く前に同じページを開き直してほしい。
住宅省エネ2026キャンペーン
国土交通省、経済産業省、環境省の3省連携で、みらいエコ住宅2026事業、先進的窓リノベ2026事業、給湯省エネ2026事業、賃貸集合給湯省エネ2026事業の4事業が動いている(住宅省エネ2026キャンペーン公式、2026年7月31日確認)。申請は消費者本人ではなく、登録された事業者が行う。
みらいエコ住宅2026事業のリフォームは、住宅の新築時期と到達する省エネ水準で上限が分かれる。
| 住宅の新築時期 | 義務基準相当の工事 | 次世代省エネ基準相当の工事 |
|---|---|---|
| 平成3年以前 | 100万円/戸 | 50万円/戸 |
| 平成4年から平成28年 | 80万円/戸 | 40万円/戸 |
対象は平成28年12月31日以前に新築されたことを登記事項証明書で確認できる住宅。1回の交付申請の補助額合計は5万円以上(他の構成事業で交付決定を受けている場合は2万円以上)。リフォームの予算は300億円で、交付申請は2026年6月30日から遅くとも2026年12月31日まで、予算上限に達した時点で終了する(みらいエコ住宅2026事業・事業概要/対象要件の詳細(リフォーム)、2026年7月31日確認)。
窓とドアの工事は先進的窓リノベ2026事業が受け持つ。対象はガラス交換、内窓設置、外窓交換(カバー工法・はつり工法)、ドア交換(カバー工法・はつり工法)で、登録された製品を使った工事に限られる。公式サイトは予算に対する申請額の割合を公表していて、確認した時点では14%と表示されていた(先進的窓リノベ2026事業公式、2026年7月31日確認)。
介護保険の住宅改修
親が要介護や要支援の認定を受けている場合は、介護保険から住宅改修費が出る。支給限度基準額は要介護度にかかわらず20万円で、保険給付は原則9割(上限18万円)、所得に応じて8割(上限16万円)または7割(上限14万円)。要介護状態区分が3段階上がったときと転居したときは、再度20万円までの枠が使える(厚生労働省・介護保険における住宅改修、2026年7月31日確認)。手すりの取付け、段差の解消、床材の変更、扉の取替え、洋式便器への取替えなどが対象になる。
減税
リフォーム促進税制の所得税控除は最大60万円から80万円、固定資産税は工事の種類に応じて2分の1から3分の2に相当する額が減額される。工事費の要件は補助金を差し引いて50万円超。適用期限は所得税の控除が令和8年1月1日から令和10年12月31日まで、固定資産税の減額が令和8年4月1日から令和13年3月31日まで(国土交通省・住宅をリフォームした場合に使える減税制度について、2026年7月31日確認)。対象は自らが居住する住宅で、賃貸住宅は入らない。
残すと決めた場合に、毎年出ていくもの
工事費は一度きりだが、保有は続く。建物が建っている土地には住宅用地特例があり、固定資産税の課税標準は200平方メートル以下の部分で6分の1、それを超える部分で3分の1になる。家を残すことで、この軽減は続く。
ただし外れる条件がある。2023年12月13日に施行された改正空家法で、そのまま放置すれば特定空家等になるおそれがある空家等が管理不全空家等として位置づけられ、市区町村長から勧告を受けると住宅用地特例の対象から除外される。特定空家等で命令に従わない場合は50万円以下の過料もある(国土交通省・固定資産税等の住宅用地特例に係る空き家対策上の措置/国土交通省・空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報、2026年7月31日確認)。
残すという判断は、直した瞬間で終わらない。誰が定期的に風を通し、草を刈り、郵便を確認するのかまでを含めて、残すことになる。
残す判断に、毎年出ていく額を先に並べた
編集部が持っているのは沖縄の傾斜地です。相続してから、売却、寄付、国庫帰属と出口を順に当たり、どれも成立せず、いまも保有しています。残すことを選んだのではなく、手放す道が閉じた結果として残りました。
そこで分かったのは、保有の判断には出ていく額の年表が要るということでした。固定資産税は年約7万円で、判断が付かない年もそのまま出ていきます。実家に建物がある場合は、ここに管理と修繕が乗ります。残すと決める前に、10年分を横に並べて工事費と足してみると、貸すか売るかの線がはっきりします。
親が住み続ける前提なら、リースバックは国のガイドブックで確かめる
親が住み続けながら現金化する方法として、リースバックがある。住宅を売却して現金を得て、売却後は毎月賃料を払うことで、住んでいた住宅に住み続けるサービスを指す。国土交通省がガイドブックを出していて、そこに主な特徴が4つ挙げられている。
- 一括で資金を受け取れるが、通常の売却や融資(リバースモーゲージを含む)と比較して選ぶことが重要
- 所有に伴う固定資産税等の支払いは契約条件によっては不要になるが、家賃等の支払いが生じる
- 自宅が自分の持ち物ではなくなり、設備の改変には事業者の承諾が要る。定期借家契約の場合は期間満了で契約が終わり、貸主が再契約を拒めば退去することになる
- 広告で買い戻せると表示されていても、買戻しの条件と価格を契約時に確認していないとトラブルになる
同じガイドブックには、国土交通省が関係者へのヒアリング等をもとにまとめたトラブル事例が載っている。約2000万円で売却したが家賃が約20万円で、10年住むと売却代金を上回ると後から気づいた例。市場での取引価格が1億2000万円相当の自宅を、700万円で売却して月約15万円で借りていた例。契約前に解約を申し出たら違約金約400万円を請求された例。定期借家契約であることを理解しておらず、再契約を拒絶されて退去することになった例(国土交通省・住宅のリースバックに関するガイドブック、2026年7月31日確認)。
ガイドブックは、提示された売却価格について複数の事業者に意見を聞き、通常の売却の場合の相場も併せて確かめることを勧めている。急いで契約せず、家族や親族とも相談しながら進めるという前提で書かれている。
決める順番と、細かい疑問
ここまでの材料を、動かす順に並べる。
- 使い道を仮に置く。自分か親が住む、貸す、売るの3つから選ぶ
- 現状のままの売却価格帯を複数社から取り、更地にした場合と並べる
- 相続した家なら、3000万円特別控除の要件に当たるかを、貸す前と直す前に確認する
- 使い道に沿って工事の範囲を決め、見積書を取る。給排水管と電気配線が含まれるかを項目で見る
- 補助金と減税の対象になるかを、着工前に事業者と自治体に確認する
- 残す場合は、固定資産税と管理費用の10年分を工事費に足して比べる
リフォーム費用は、売るときに戻ってくるか
全額は戻らないと考えておく。古い家が土地として取引されている地域では、内装の新しさは価格に反映されにくい。売却を前提にした工事は、控除の要件に関わる耐震と、買い手が見送る原因になる雨漏りや傾きの是正に絞るほうが、話が早い。
補助金は工事のあとに申請できるか
住宅省エネ2026キャンペーンの各事業は、登録された事業者が申請を行う仕組みで、対象期間より前に着工した工事は対象にならない。介護保険の住宅改修も、着工前の申請が原則になっている。工事を頼む相手を選ぶ段階で、その事業者が登録事業者かどうかを聞いておく。
空き家のまま何年も置いておくと、どうなるか
建物が建っているあいだは住宅用地特例が続くが、管理不全空家等として勧告を受けると特例から外れる。放置は、費用がかからない選択肢ではなく、税額が上がる可能性を抱えた選択肢になる。
兄弟の共有名義でも、リフォームや賃貸はできるか
共有物の変更や管理は、持分の割合で必要な同意が変わる。工事の範囲によって全員の同意が要るのか過半数で足りるのかが変わるため、名義の状態を先に確認してから範囲を決める。遺産分割の判断は編集部の領域ではないので、話がまとまらない場合は弁護士や司法書士に持っていく。
親が施設に入ったあとに直して貸すのは、どの順番になるか
親名義のままなら贈与の論点が先に来る。相続後であれば、3000万円特別控除を使う可能性を残すのか、貸して家賃で回すのかを選ぶことになる。両立はしない。全体の順番は実家じまいの進め方と費用の全体像に置いた。
