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実家を賃貸に出す場合の準備と収支の目安

実家を賃貸に出す場合の準備と収支の目安

実家を貸すか売るか、決めきれないまま数年経つのは珍しくない。判断を分けるのは家賃の高さではなく、工事費を何年で回収できるかと、貸した瞬間に消える税の特例があるかどうかだ。

必要な工事、収支の組み立て、契約の選び方を順に並べる。制度は2026年7月31日時点で国税庁と国土交通省の公開情報を確認した。

この記事の目次
  1. 貸す・売る・空き家のまま、まず3つを同じ表に並べる
  2. 貸すと決める前に確認する4点
  3. 工事の費用は相場ではなく「回収年数」で決める
  4. 家賃から引かれるもの一覧
  5. 年間収支の組み立て方
  6. 普通借家と定期借家、どちらで貸すか
  7. 貸した瞬間に消える3,000万円の控除がある
  8. 家賃が入り始めたあとの税金と確定申告
  9. リースバックは「貸す」ではなく「売る」
  10. 貸さずに空き家のまま置いた場合に起きること
  11. 決める手順

貸す・売る・空き家のまま、まず3つを同じ表に並べる

家賃の見込みから入ると判断を誤りやすい。先に、3つの選択肢がそれぞれ何を生んで何を奪うかを並べる。

選択肢入ってくるもの出ていくもの後から方向を変えられるか
貸す毎月の家賃貸せる状態にする工事費、管理手数料、修繕費、固定資産税、確定申告の手間借主がいる間は売却も自分で使うこともできない
売る売却代金(一括)仲介手数料、譲渡所得にかかる税、家財の処分費戻せない
空き家のまま持つなし固定資産税、見回りの交通費、劣化の進行いつでも動けるが、劣化が進むほど選べる出口は減る

貸すことの本質は、収入が増えることではなく、出口が一時的に閉じることにある。借主が入れば、売りたくなった月にすぐ売れない。だから最初に決めるのは家賃ではなく、何年その家を手放さないつもりかだ。

まだ方向そのものが固まっていないなら、実家が空き家になったら最初に決める3つのことで順番を整理してから、この記事の数字を当てるほうが早い。

貸すと決める前に確認する4点

この4点のどれかが引っかかると、工事の見積もりを取っても前に進まない。先に潰しておく。

1. 名義が誰になっているか

親名義のままでは、あなたが貸主として契約できない。相続で取得した不動産の登記申請については、法務省が義務化の案内ページを設けている(法務省・相続登記の申請義務化に関するページ/2026年7月31日確認)。手続きの具体的な期限や必要書類は司法書士に確認する範囲になる。

2. 共有になっていないか

兄弟で相続して共有になっている場合、貸す判断を一人で決められない。誰の同意がどこまで必要かは持分の状況で変わるため、司法書士や弁護士に確認する。編集部は法令の当てはめまでは行わない。

3. その地域に借り手がいるか

戸建ての賃貸需要は、売買以上に立地で割れる。最寄り駅、学区、周辺の戸建て賃貸の募集件数と家賃を、賃貸情報サイトで実際に検索して確認する。募集そのものが数件しか出てこない地域なら、工事をしても空室期間が長くなる。

4. 家財が残っていないか

貸すには家の中を空にする必要がある。仏壇、写真、書類の扱いは家族の合意がいる作業で、業者に頼むにしても日程が読みにくい。工事の見積もりより先に、ここに何か月かかるかを見ておく。

工事の費用は相場ではなく「回収年数」で決める

貸すための工事費を相場表で決めると、たいてい過剰になる。編集部が勧める順番は、金額を先に決めず、回収年数から逆算することだ。

計算はこれだけでいい。

回収年数 = 工事費 ÷(想定家賃 × 12か月 × 想定稼働率)

想定稼働率は、同じ地域の戸建て賃貸がどれくらいの期間で埋まるかで変える。年の1〜2か月空くと見るなら0.83〜0.92あたりになる。ここで出た回収年数が、あなたが「その家を手放さないと決めた年数」より長ければ、その工事はやりすぎている。

工事の優先順位

  1. 雨漏り、シロアリ、給排水の漏れなど、放置すると建物が壊れるもの
  2. ガス、給湯、電気容量など、住めるかどうかに直結するもの
  3. 水回りの設備と壁紙、床など、内見の印象を左右するもの
  4. 間取り変更や外構など、家賃にほとんど跳ね返らないもの

4は原則として後回しにする。賃貸管理会社の解説でも、壁紙の変色や古い水回り設備が敬遠されやすい点が挙げられており、まずは少額の初期費用で貸し出すことを検討し、賃料査定と収支シミュレーションを依頼して回収可能な工事費を出す流れが示されている(リロの留守宅管理「実家を賃貸に出す方法とは?」/2026年7月31日確認)。

費用の幅

工事費は状態と範囲で大きく動く。リフォームの一括見積りサイトの解説では、部分的な改修で数十万円から、大規模な改装では1,000万円を超えることもあるとされている(リショップナビ「実家をリフォームしたいときにお金がない場合の対策」/2026年7月31日確認)。一点の金額で予算を組まず、幅のまま複数社に当てて絞り込む。

工事の中身をもう少し細かく詰めるなら、実家を残す場合のリフォーム費用と、貸すという選択空き家のリフォーム費用の相場|住める状態に戻すまでに、住める状態に戻すまでの工程を分けて置いてある。

貸す前提のプランと費用を、先に複数社で比べる

工事費をいくらまでかけるかは、想定家賃が分からないと決められない。活用プランを複数社から取り寄せると、家賃の見込みと必要な工事の範囲がセットで並ぶので、回収年数の計算に入れられる。

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家賃から引かれるもの一覧

手元に残るのは家賃の全額ではない。継続的に引かれるものと、入退去のたびに出るものを分けて把握する。

毎月引かれるもの

入退去のたびに出るもの

  • 仲介手数料:賃料の0.5〜1か月分が相場とされる(アキカツ/2026年7月31日確認)
  • 原状回復・クリーニング費:借主負担にならない経年劣化分は貸主が持つ

数年おきに出るもの

アキカツの解説では、修繕周期の目安として水回りは10年ごと、外壁は10〜15年ごと、害虫駆除は5年ごとが挙げられている(2026年7月31日確認)。築年数が進んだ実家は、この周期の途中どころか一巡目が済んでいないことが多い。家賃の1〜2割を修繕の積立として最初から抜いておくと、給湯器が壊れた月に慌てない。

年間収支の組み立て方

月ではなく年で組む。月で見ると空室と修繕が視界から消えるからだ。編集部が使っている形はこれだけでいい。

中身
年間家賃収入想定家賃 × 12 × 想定稼働率
− 管理手数料年間家賃収入 × 5〜10%
− 固定資産税・都市計画税納税通知書の実額
− 火災保険料年額
− 修繕積立年間家賃収入 × 10〜20%
− 初期工事費の按分工事費 ÷ 貸すつもりの年数
= 手元に残る額ここが赤なら、貸す前提が成立していない

この表の最後がマイナスに沈むなら、家賃を上げるのではなく工事費を削るか、貸す年数を延ばすか、貸す以外の出口に戻る。無理に埋めない。

相談者相談者
家賃が入るなら固定資産税の分は浮くと思っていました
実家じまいナビ編集部実家じまいナビ編集部
浮くこともあります。ただし修繕積立と工事費の按分を入れると、築年数の進んだ戸建てでは差し引きゼロ近辺に着地することが珍しくありません。表の最後まで書いてから判断してください

普通借家と定期借家、どちらで貸すか

契約の型は、あとから変えられない部分なので先に決める。将来その家を売る予定や、家族が戻る可能性があるなら、ここが最重要になる。

普通借家契約

期間が満了しても、貸主から正当の事由なく更新を拒めない。長く貸し続ける前提なら素直だが、売りたくなったとき、家族が戻りたくなったときに自分の都合で終われない。

定期借家契約

国土交通省は定期建物賃貸借を、契約で定めた期間が満了することにより、更新されることなく確定的に賃貸借契約が終了する制度と説明している(国土交通省「定期建物賃貸借」/2026年7月31日確認)。使うには要件がある。

  • 契約期間を定めること
  • 公正証書などの書面により契約を締結すること
  • 契約の締結前に、更新がなく期間の満了により終了する旨を記載した事前説明文書を借主に交付し、説明すること
  • 契約期間が1年以上の場合、期間満了の1年前から6か月前までの間に終了の通知をすること(1年未満の契約には通知義務がない)

また、居住用で床面積200平方メートル未満の建物は、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により借主が自己の生活の本拠として使用することが困難となった場合、1か月前の申入れで借主から解約できる(国土交通省「定期建物賃貸借 Q&A」/2026年7月31日確認)。

代償もある。賃貸管理会社の解説では、定期借家の賃料は普通借家の8〜9割程度になる傾向が示されている(リロの留守宅管理/2026年7月31日確認)。終わり方を自分で握る代わりに、家賃が1〜2割落ちると考えておく。

貸した瞬間に消える3,000万円の控除がある

収支表に出てこないのに一番大きい費用がこれだ。相続した実家を売るときに使える可能性がある特例が、賃貸に出すと使えなくなる。

国税庁の「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」は、一定の要件を満たす場合に譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度で、要件のひとつに、その家屋と敷地が相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないことが入っている(国税庁 No.3306/2026年7月31日確認)。人に貸した時点で、この「貸付けの用に供されていない」が崩れる。

同ページで確認できる主な要件は次のとおり。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
  • 区分所有建物でないこと
  • 相続の開始の直前に被相続人以外に居住していた人がいなかったこと
  • 譲渡時に一定の耐震基準を満たすこと(または家屋を取り壊して敷地を売ること)
  • 売却代金が1億円以下であること
  • 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
  • 適用期限は令和9年12月31日までの譲渡
  • 令和6年1月1日以後の譲渡で、相続人が3人以上いる場合は控除額が2,000万円になる

つまり、この特例に当たりそうな家を「とりあえず数年貸してみる」と、売るときの手取りが最大3,000万円分の控除を失った状態になる可能性がある。家賃が月8万円なら年96万円で、失う控除に追いつくまでの年数は長い。

どの要件に当たるかの判定と税額の計算は税理士の領域で、編集部は行わない。ただし貸す前に、この特例に当たる家かどうかだけは税理士か税務署に確認する。順番を逆にすると取り返せない。

家賃が入り始めたあとの税金と確定申告

不動産所得の計算

家賃収入はそのまま課税されるわけではない。国税庁は不動産所得を「総収入金額 − 必要経費」として示し、必要経費として固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費などを挙げている(国税庁 No.1370/2026年7月31日確認)。必要経費になるのは、不動産収入を得るために直接必要な費用のうち、家事上の経費と明確に区分できるものとされている。

確定申告が必要になるライン

給与を1か所から受けていて、その全部が源泉徴収の対象である場合、給与所得と退職所得を除く各種の所得金額の合計額が20万円を超える人は確定申告が必要とされている(国税庁 No.1900/2026年7月31日確認)。判定するのは家賃の額ではなく、経費を引いたあとの所得の額になる。

中古の建物の減価償却

相続した実家は中古資産にあたるため、耐用年数は簡便法で見積もることができる。法定耐用年数の全部を経過した資産は「法定耐用年数 × 20%」、一部を経過した資産は「(法定耐用年数 − 経過年数)+(経過年数 × 20%)」で、いずれも2年に満たない場合は2年とされる(国税庁 No.5404/2026年7月31日確認)。築年数の進んだ実家は償却期間が短くなり、最初の数年に減価償却費が厚く出て、そのあと消える。手残りの感覚が数年目で変わるのはこのためだ。

将来の相続税を考えている場合

親が存命で、これから相続を迎える段階なら、貸すこと自体が土地の評価に効く。国税庁は貸家建付地の価額を「自用地としての価額 − 自用地としての価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合」で示している(国税庁 No.4614/2026年7月31日確認)。借地権割合と借家権割合は国税庁の財産評価基準書で確認できる。個別の相続でどう働くかは税理士に確認する範囲になる。

リースバックは「貸す」ではなく「売る」

実家の話をしていると、リースバックという言葉が出てくることがある。名前に賃貸が入っているので混同されやすいが、これは所有者側が貸す話ではない。

国土交通省はリースバックを、住宅を売却して現金を得て、売却後は毎月賃料を支払うことで、住んでいた住宅に引き続き住むサービスと定義し、消費者向けのガイドブックを公表している(国土交通省「住宅のリースバックに関するガイドブック」を公表しました/2026年7月31日確認)。所有権は買主に移り、あなた(または親)は借主になる。

したがって、実家をどうするかという文脈でリースバックが当てはまるのは、親がその家に住み続けたいが、まとまった現金が必要という状況に限られる。親が施設に移る、あるいは既に空き家になっている実家には、そもそも使う場面がない。

同ガイドブックの公表理由として、契約内容について理解が不十分なまま契約が締結されるトラブル事例が挙げられている。検討するなら、売買契約と賃貸借契約の2本を同時に読むことになる点を踏まえ、契約前にガイドブックを当たっておく。

貸さずに空き家のまま置いた場合に起きること

「決められないから、しばらくこのまま」も選択肢のひとつではある。ただし放置にはコストが乗る。

令和5年12月13日、空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律が施行された(国土交通省・空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報/2026年7月31日確認)。この改正で、周囲に著しく悪影響を及ぼす「特定空家」の手前の段階として「管理不全空家」が設けられ、指導などの対象になった。

国土交通省の空き家対策特設サイトは、一般の住宅には固定資産税などが減額される住宅用地特例が適用されるが、管理不全空家や特定空家への指導に従わず勧告を受けると、その税負担の軽減措置が受けられなくなると説明している(国土交通省・空き家対策 特設サイト/2026年7月31日確認)。土地の税額が上がるのは、家を貸すか売るか決めていない期間にも進む変化だ。

加えて、人が住まない家は劣化が早い。劣化が進むほど、貸すために必要な工事費は上がり、s3の回収年数の計算が成立しなくなっていく。決めない期間そのものが、選べる出口を削っていく。

実家じまいナビ編集部 実家じまいナビ編集部の実体験

貸すという出口を検証したときのこと

編集部の運営者は沖縄の傾斜地を相続している。売却、寄付、国庫帰属と順に当たり、貸すことも出口として検討したが、建物がなく造成もされていない土地に借り手は見つからず、いまも保有したままだ。毎年出ていくのは固定資産税の年約7万円だけで、そこから何かが戻ってくる仕組みはない。

だから「貸せる建物がある」というのは、それ自体が選択肢を持っている状態だと考えている。ただし、選択肢があることと、貸したほうが得であることは別だ。この記事で工事費の回収年数と3,000万円控除を先に置いたのは、手を動かしてから気づくと戻れないのがその2つだからだ。

決める手順

ここまでの内容を、実際に動く順に並べ直す。

  1. 名義と共有の状態を確認する。相続登記が済んでいなければ、そこから。
  2. その家が空き家の3,000万円特別控除に当たるかを税理士か税務署に確認する。当たるなら、貸す前に売却との比較を必ず行う(国税庁 No.3306/2026年7月31日確認)。
  3. 同じ地域の戸建て賃貸の募集件数と家賃を実際に検索する。募集が数件しかない地域は、工事をしても空室が長い。
  4. 想定家賃を複数社から取り、必要な工事の範囲とセットで比べる。ここで初めて金額の話に入る。
  5. 回収年数を計算する。工事費 ÷(想定家賃 × 12 × 稼働率)が、手放さないと決めた年数を超えるなら工事を削る。
  6. 契約の型を決める。いずれ売る、家族が戻る可能性があるなら定期借家を検討する(国土交通省・定期建物賃貸借/2026年7月31日確認)。
  7. 年間収支表の最後の行を書く。赤なら貸さない。

2と5でつまずいたら、貸すという前提を一度外して、売った場合の手取りと並べたほうがいい。査定額が分からないまま貸すか売るかを議論しても、答えは出ない。

貸した場合と売った場合を、同じ土俵の数字で比べる

年間収支表の最後の行と比べる相手は、売却の手取り額になる。複数社の査定額を並べてから、貸す年数と回収年数の計算に戻ると、判断が数字の比較になる。

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実家じまいナビ編集部 |沖縄に売れない土地を持つ当事者が運営

実家じまいナビ編集部です。運営者自身が沖縄に売れない土地を相続し、出口が見つからないまま維持している当事者です。役所と業者を回って分かった順番、実際にかかる費用、先に知っておけば防げたことを記録しています。法令の解釈が必要な部分は断定せず、調べ方と相談先を示す方針です。

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