相続した土地を売る流れ|名義変更から引き渡しまで

名義が亡くなった人のままの土地は、そのままでは売れない。
順番は、遺産分割協議、相続登記、境界の確認、媒介契約、引き渡しの5段階で、着手から引き渡しまで半年前後が目安。相続登記は2024年4月から3年以内の申請が義務で、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になる(法務省・2026年7月31日確認)。
この記事の目次
相続した土地を売るまでの全体像と期間
相続した土地の売却は、不動産の売却活動と相続手続きが直列につながっている。買主を探している期間より、その手前で権利関係を確定させる工程のほうが長引きやすい。ここを飛ばして不動産会社に相談しても、話は登記の確認で止まる。
着手から代金の受け取りまで、実務上は次の順に進む。
| 段階 | やること | 期間の目安 | 主な窓口 |
|---|---|---|---|
| 1 | 遺言の有無の確認と相続人の確定(戸籍の収集) | 2週間〜2か月 | 市区町村・法務局 |
| 2 | 遺産分割協議で土地の取得者を決める | 数週間〜数か月 | 相続人全員 |
| 3 | 相続登記(名義変更) | 書類が揃えば申請から1〜2週間 | 法務局・司法書士 |
| 4 | 境界の確認と確定測量 | 官民境界の有無で変動 | 土地家屋調査士 |
| 5 | 査定・媒介契約・売却活動 | 1〜6か月 | 不動産会社 |
| 6 | 売買契約・決済・引き渡し | 1〜2か月 | 買主・司法書士 |
| 7 | 譲渡所得の確定申告 | 売った年の翌年 | 税務署 |
3の相続登記と4の境界確認は同時に進められる。登記の完了を待ってから測量を頼むと、そのぶん引き渡しが後ろにずれる。測量は隣地所有者や道路管理者との立会い日程に左右されるので、登記書類を集め始めた段階で土地家屋調査士に声をかけておくと全体が短くなる。
ステップ1|誰の名義にするかを先に決める
最初にやることは、土地を売る準備ではなく、その土地が誰のものかを確定させることになる。手順は3つに分かれる。
- 遺言書があるかを確認する。あれば原則としてその内容が優先される
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍をたどり、相続人を全員確定させる
- 遺言で指定が無い財産について、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作る
協議書には相続人全員の署名と実印の押印、そして印鑑証明書が要る。1人でも欠けると相続登記が通らないため、連絡が取れていない相続人がいる場合はここが最大の関門になる。
土地の分け方は4通り
- 換価分割:売って現金にしてから分ける。土地を分けたい相続人が複数いるときの標準形
- 代償分割:1人が土地を取得し、他の相続人に金銭を払う
- 現物分割:土地を分筆するなどして現物のまま分ける
- 共有分割:法定相続分の割合で共有名義にする
売却が前提なら、共有分割は避けたほうが動きやすい。共有名義の土地を丸ごと売るには共有者全員の同意が必要で、1人が反対しただけで売却活動そのものが止まる。代表者1人の名義にして売り、代金を分ける換価分割にしておくと、その後の契約や決済の日程調整が1人で済む。誰の名義にするかで税金の扱いも変わるため、相続税を納めている場合は分け方を決める前に税理士に当たっておく範囲になる。
ステップ2|相続登記(名義変更)の期限・書類・費用
相続登記は2024年4月1日から義務になった。相続で不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になる。遺産分割が成立した場合は、成立した日から3年以内にその内容の登記をする義務が別にかかる(法務省・2026年7月31日確認)。
施行前に発生していた相続も対象で、その場合の期限は2027年3月31日までとされている。3年以内に協議がまとまりそうにないときは、自分が相続人であることを登記官に申し出る「相続人申告登記」で基本的義務だけは果たせる。ただしこれは所有者を確定させる登記ではないので、売却には使えない。売るなら本来の相続登記が必要になる。
そろえる書類
法務局が公開している登記手続ハンドブック(遺産分割協議編)に沿うと、中心になるのは次の書類。
- 登記申請書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、住民票の除票
- 相続人全員の戸籍謄本、土地を取得する人の住民票
- 遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書(遺言による場合は遺言書)
- 固定資産評価証明書
費用
相続による所有権移転登記の登録免許税は、不動産の価額(固定資産税評価額)の1000分の4、つまり0.4%(国税庁タックスアンサーNo.7191・2026年7月31日確認)。評価額1000万円の土地なら4万円という計算になる。
ただし免税措置があり、不動産の価額が100万円以下の土地の相続登記、および相続で土地を取得した人が登記をせずに亡くなった場合の相続登記は、2027年3月31日まで登録免許税が免税される(法務省・2026年7月31日確認)。評価額の低い土地を相続したなら、まずこの2つに当たるかを法務局で確認する価値がある。
書類の取得費は、不動産売却メディアHOME4Uの目安で戸籍謄本など合計5,000円から10,000円程度。司法書士に依頼する場合の報酬は事務所ごとに幅があり、同メディアでは75,000円程度が示されている。相続人が少なく戸籍が近隣で揃うなら自分で申請することもできるが、相続人が多い、転籍を繰り返している、遠方の法務局が管轄、といった条件が重なると司法書士に任せたほうが期限に間に合う。
相続登記の義務化はいつまで?過料と自分でやる手順で、申請書の書き方と自分でやる場合の段取りを分けて整理している。
ステップ3|境界の確認と確定測量
建物付きの実家と違い、土地だけの売却でつまずきやすいのが境界。買主は面積と範囲が確定していない土地を買いたがらないため、境界標が現地に無い、または隣地との認識が食い違っている土地は、確定測量をしてからでないと話が進まないことが多い。
確定測量は、土地家屋調査士が隣地の所有者と現地で立ち会い、境界点を確認して筆界確認書に署名を得る作業になる。接している相手が私有地だけなら民民立会い、道路や水路など公有地に接していれば官民立会いが加わる。
費用の目安
- 民民立会いのみ:30万〜50万円程度
- 官民立会いを含む:60万〜80万円程度
これは野村不動産グループのノムコムが示す相場(2026年7月31日確認)。土地家屋調査士事務所の解説では、面積が広くなるほど上がり、300坪規模で官民境界がある場合は120万〜150万円程度になることもあるとされる。いずれも幅で見ておく数字で、実額は現地を見た見積りでしか出ない。
官民立会いは役所に持ち帰ってからの確認が入るため、民民だけの場合より日数がかかる。売却の時期を決めているなら、ここを最初に着手する。なお測量費を誰が負担するかは売主買主の取り決め次第だが、売主が確定測量図を用意して引き渡す条件で契約するのが一般的。
ステップ4|査定と媒介契約|手数料の上限は2024年に変わった
名義と境界の見通しが立ったら、不動産会社に査定を依頼する。土地の価格は査定する会社によって差が出やすく、特に地方や変形地では扱いに慣れているかどうかで提示額が変わる。1社だけの査定額を相場と受け取らず、複数社に出して幅を見る。
媒介契約の3種類
| 種類 | 複数社への依頼 | 自分で買主を見つけた場合 |
|---|---|---|
| 一般媒介 | できる | 直接取引できる |
| 専任媒介 | 1社のみ | 直接取引できる |
| 専属専任媒介 | 1社のみ | その会社を通す必要がある |
買い手が付きにくい土地ほど、1社に責任を持たせる専任型のほうが動いてもらいやすい傾向がある。逆に立地が良く引き合いが見込めるなら一般媒介で競わせる選択もある。
800万円以下の土地は手数料の扱いが違う
仲介手数料の上限は国土交通省の告示で決まっている。2024年7月1日施行の改正(令和6年国土交通省告示第949号)で、売買代金が800万円以下の宅地建物は「低廉な空家等」として、通常の上限を超えて30万円の1.1倍、つまり33万円まで受け取れるようになった(高知県・2026年7月31日確認)。
800万円を超える取引は従来どおり、売買代金の3%+6万円に消費税を加えた額が上限。安い土地ほど手数料の負担割合が重くなるので、媒介契約を結ぶ前に手数料の額を書面で確認しておく。この特例は依頼者への説明と合意が前提とされているため、契約書に記載が無いまま請求されるものではない。
ステップ5|売買契約から引き渡しまで
買主が決まったら売買契約を結び、手付金を受け取る。決済日に残代金を受け取り、同時に所有権移転登記を申請して引き渡しとなる。契約から決済までは1か月から2か月程度みておく。
売買契約書の印紙税
不動産の譲渡に関する契約書には印紙税がかかる。2027年3月31日までに作成されるものは軽減税率が適用され、契約金額別に次のとおり(国税庁タックスアンサーNo.7108・2026年7月31日確認)。
| 契約金額 | 軽減後の税額 |
|---|---|
| 100万円超〜500万円以下 | 1,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 5,000円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 10,000円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 30,000円 |
決済日にやること
- 残代金の受領と、抵当権が残っていればその抹消登記
- 買主への所有権移転登記の申請(司法書士が立ち会う)
- 境界標と確定測量図による現地の境界明示
- 固定資産税の精算
固定資産税は年度単位で課され、年の途中で売っても納税通知書は売主に届く。そのため引き渡し日を基準に日割りで精算する条項を売買契約に入れるのが実務の慣行になっている。法律上の義務ではないので、契約書に精算の記載があるかを確認する。
売却にかかる費用の一覧
相続した土地を売るときに出ていくお金を、支払先ごとに並べる。金額は幅で、実額は見積りで確認する。
| 費目 | 支払先 | 目安 | タイミング |
|---|---|---|---|
| 戸籍謄本など書類の取得 | 市区町村・法務局 | 5,000〜10,000円程度 | 登記の前 |
| 登録免許税(相続登記) | 国 | 評価額の0.4% | 登記申請時 |
| 司法書士報酬(相続登記) | 司法書士 | 事務所により幅がある | 登記申請時 |
| 確定測量 | 土地家屋調査士 | 30万〜80万円程度 | 売却活動の前 |
| 建物があれば解体 | 解体業者 | 構造と立地で大きく変動 | 更地で売る場合 |
| 仲介手数料 | 不動産会社 | 800万円超は代金の3%+6万円+消費税が上限 | 契約時と決済時 |
| 印紙税 | 国 | 契約金額により1,000円〜 | 契約時 |
| 譲渡所得税・住民税 | 国・自治体 | 利益が出た場合のみ | 翌年の申告と納付 |
建物が建ったままの土地を更地にして売るか、現状のまま売るかで費用の総額は変わる。解体費を払っても更地のほうが高く売れるとは限らないので、両方の想定で査定を取ってから決める。この比較は実家を売る手順と相場の調べ方|更地と現状の比較で扱っている。
税金と確定申告はどこで効いてくるか
売って利益(譲渡所得)が出た場合は、売った年の翌年に確定申告をして所得税と住民税を納める。相続した土地に特有の論点は3つある。
取得費と所有期間は被相続人から引き継ぐ
相続や贈与で取得した土地の取得費は、被相続人が買ったときの購入代金や購入手数料をもとに計算する。所有期間も被相続人の取得時期がそのまま引き継がれる(国税庁タックスアンサーNo.3270・2026年7月31日確認)。相続直後に売っても、親が長く持っていた土地なら長期譲渡として扱われることになる。購入時の売買契約書が残っているかどうかで税額が大きく変わるので、遺品の中から先に探しておく。
取得費加算の特例には3年10か月の期限がある
相続税を納めた人が、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに相続財産を譲渡した場合、納めた相続税の一部を取得費に加算できる(国税庁タックスアンサーNo.3267・2026年7月31日確認)。相続税の申告期限が10か月なので、合わせておよそ3年10か月が期限になる。相続税がかかっていない場合はこの特例の対象外。
空き家を取り壊した土地は3000万円控除の対象になりうる
被相続人が住んでいた家屋を取り壊して土地を売る場合、要件を満たせば譲渡所得から最大3000万円を控除できる(国税庁タックスアンサーNo.3306・2026年7月31日確認)。相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること、売却代金が1億円以下であること、取り壊した土地を相続の時から譲渡の時まで事業・貸付け・居住に使っていないことなどが条件になる。2024年1月1日以降の譲渡では、相続人が3人以上いる場合の控除額は1人あたり2000万円までとなり、適用は2027年12月31日までの譲渡が対象とされている。
編集部は士業ではないので、個別の税額計算や、どの特例が有利かの判断はしない。上の3点は「自分が当たるかもしれない制度」として税理士に確認するための項目として使う。税額の考え方と期限の数え方は相続した土地を売る税金|取得費加算と3年10か月の期限で分けて整理している。
売れない土地だったときの分岐
ここまでの手順は「買い手が付く土地」を前提にしている。査定を取った結果、値が付かない、または引き受け手がいないと分かる土地もある。傾斜が急、接道していない、造成に費用がかかる、といった条件が重なった場合がそれにあたる。
編集部が相続した土地の場合
編集部が相続したのは沖縄の傾斜地で、いまも保有している。売却、寄付、国庫帰属と出口を順に当たったが、どれも成立しなかった。傾斜と造成費の見込みが理由で、条件としては特殊なものではない。
その間も固定資産税は年約7万円が出ていく。査定を取る前に知っておきたかったのは、「いくらで売れるか」より先に「境界が確定しているか」「接道しているか」を確認しておけば、動かせる出口と動かせない出口を早い段階で分けられたということ。順番を間違えると、測量費を払ってから売れないと分かる。
相続土地国庫帰属制度が使えるか
相続した土地を国に引き取ってもらう制度が2023年から始まっている。ただし審査があり、建物がある土地、担保権が設定されている土地、土壌汚染がある土地、境界が明らかでない土地や所有権に争いがある土地は申請の段階で却下される。過分な費用や労力がかかる崖がある土地なども不承認の対象になる。審査手数料は土地1筆あたり14,000円で、却下や不承認になっても返還されない(法務省・2026年7月31日確認)。
この制度を使う場合も、先に相続登記または相続人申告登記を済ませておく必要がある。つまり名義変更は、売る場合も手放す場合も避けて通れない。
売らずに持つ場合の比較材料
買い手が付かないなら、貸す、資材置き場や駐車場として使う、といった活用の選択肢が残る。ただし固定資産税は保有している限り毎年かかるので、活用で得られる収入がその負担を上回るかどうかが判断の分かれ目になる。売却の査定額と活用時の想定収入を並べて比べる。
つまずきやすい場面
亡くなった親の名義のままでも売れるか
売れない。売買による所有権移転登記は、登記簿上の所有者から買主へ移すものなので、所有者が亡くなっている状態では登記が通らない。相続登記で相続人の名義にしてから売却する。売買契約と相続登記を同じ時期に並行させることはあるが、名義変更そのものを飛ばすことはできない。
相続人の1人が反対している
遺産分割協議は全員の合意が要件になる。まとまらないまま3年が近づいているなら、相続人申告登記で登記義務だけ先に果たしておき、協議を続ける。話し合いが動かない場合は家庭裁判所の遺産分割調停という手段があるが、この判断は弁護士の領域になる。
土地が遠方にある
登記はオンライン申請や郵送でも可能で、現地に行かずに進められる部分は多い。ただし境界の立会いは現地で行われるため、土地家屋調査士との日程調整が必要になる。売買の決済も、司法書士に委任して代理で進める形が取れる。遠方であることを理由に手続きを止めると、固定資産税だけが毎年出ていく状態が続く。
相続放棄をすれば土地から解放されるか
相続放棄は原則として相続の開始を知った時から3か月以内で、しかも土地だけを選んで放棄することはできない。預貯金を含む相続財産全体を放棄することになる。売却を検討している時点では選択肢に入らないことが多い。
