農地の相続税評価額の出し方|区分ごとの計算

農地の相続税評価額は、宅地と同じ式では出ない。区分が4つあり、区分が決まれば計算式は3通りしかない。
純農地と中間農地は固定資産税評価額×倍率、市街地農地は宅地としての価額から造成費を引いた額、市街地周辺農地はその80%(国税庁No.4623、令和7年4月1日現在法令等・2026年7月31日確認)。出発点は評価倍率表の記号1文字になる。
この記事の目次
農地の相続税評価は「4区分×3つの式」で決まる
農地は農地法などで宅地への転用が制限され、都市計画によって地価の事情も大きく違う。そのため国税庁は、農地の価額を4種類に区分して評価すると定めている(国税庁タックスアンサーNo.4623「農地の評価」、令和7年4月1日現在法令等。2026年7月31日確認)。
区分は4つだが、計算式は実質3通りしかない。先に全体を置く。
| 区分 | 評価倍率表の記号 | 評価の方式 | 計算式 |
|---|---|---|---|
| 純農地 | 純 | 倍率方式 | 固定資産税評価額 × 倍率 |
| 中間農地 | 中 | 倍率方式 | 固定資産税評価額 × 倍率 |
| 市街地周辺農地 | 周比準 | 宅地比準方式 | 市街地農地としての価額 × 80% |
| 市街地農地 | 比準/市比準 | 宅地比準方式または倍率方式 | (宅地とした場合の1平方メートル当たりの価額 − 1平方メートル当たりの造成費)× 地積 |
表の左から2列目が実務の入口になる。国税庁の評価倍率表で農地の所在地を引くと、田と畑の欄に「純」「中」「周比準」「比準」のいずれかが印字されている。ここが決まらないと、どの式を使うかも決まらない。
逆に言えば、記号が読めれば純農地と中間農地は電卓1回で評価額が出る。手が止まるのは「周比準」と「比準」、つまり宅地並みに評価する側へ振り分けられたときだけになる。宅地への転用がしやすい場所の農地ほど、評価額も計算の手間も跳ね上がる構造になっている。
自分の農地がどの区分か、倍率表の記号で確かめる
区分の判定は、資料を取り寄せる前に無料で終わる。順番は3つ。
- 国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」(https://www.rosenka.nta.go.jp/)で相続開始の年分を選ぶ
- 都道府県 → 評価倍率表(一般の土地等用)→ 市区町村 → 町名または大字名の行を開く
- その行の「田」「畑」欄に付いた略称を読む
略称の意味は国税庁が公表している。純農地は「純」、中間農地は「中」、市街地周辺農地は「周比準」、市街地農地は「比準」または「市比準」。「比準」「市比準」「周比準」と表示された地域は、付近の宅地の価額に比準して評価する地域だと注記されている(国税庁「評価倍率表(一般の土地等用)の説明」https://www.rosenka.nta.go.jp/docs/ref_rtof.htm ・PDF版 https://www.rosenka.nta.go.jp/docs/ref_rto.pdf /2026年7月31日確認)。
同じ説明の掲載例では、ひとつの大字の中に「農業振興地域内の農用地区域」という行と「上記以外の地域」という行が分かれ、前者は「純 34/純 54」、後者は「純 48/純 67」のように別々の倍率が並んでいる。番地が同じ大字でも、農用地区域の内か外かで数字が変わる。
記号ではなく「路線」と書かれているのは宅地欄で、その地域が路線価地域であることを示す表示になる。田や畑の欄が「比準」なら、路線価図に戻って宅地としての単価を拾う作業に進む。
純農地・中間農地は倍率方式(国税庁の計算例)
「純」または「中」だった場合は、掛け算1回で終わる。
評価額=その農地の固定資産税評価額 × 評価倍率
国税庁の説明ページには、そのままの計算例が載っている。田の固定資産税評価額50,000円に倍率48を掛けて、評価額2,400,000円。同じ掲載例の宅地は、固定資産税評価額10,000,000円×倍率1.1で11,000,000円となっている(前掲「評価倍率表(一般の土地等用)の説明」)。宅地の倍率が1倍台なのに対し、農地の倍率が数十倍になるのは、農地の固定資産税評価額そのものが低く抑えられているからで、倍率が大きいこと自体は不利を意味しない。
詰まりやすいのは、掛ける相手を取り違えることのほうになる。使うのは固定資産税評価額であって、納税通知書に並ぶ課税標準額や税相当額ではない。国税庁も「固定資産税評価額は、都税事務所や市(区)役所又は町村役場で確認してください」と付記している。手元の通知書で読み取れないときは、市区町村で評価証明書を取ると確実になる。
納税通知書の「評価額」欄を探すのに時間がかかった
編集部が相続したのは沖縄の傾斜地で、農地ではない。それでも毎年届く固定資産税の納税通知書は同じ様式で、固定資産税は年約7万円が出ていく。倍率方式の記事を作るにあたって自分の通知書を開き直したが、評価額と課税標準額が別の欄に並んでいて、最初はどちらを拾えばいいのか分からなかった。負担調整のかかった課税標準額のほうが目立つ位置にあることも多い。農地の評価を自分で試すなら、通知書の課税明細をそのまま市区町村の窓口に持っていって、どの欄が固定資産税評価額かを指してもらうのが早い。
市街地農地は宅地比準方式、主役は造成費
「比準」「市比準」だった場合の式は次のとおり(No.4623)。
評価額=(その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額 − 1平方メートル当たりの造成費)× 地積
前半の宅地としての価額は、路線価地域ならその路線価、倍率地域なら「評価しようとする農地に最も近接し、かつ、道路からの位置や形状等が最も類似する宅地の評価額(宅地としての固定資産税評価額×宅地としての評価倍率)」を基に計算すると国税庁が定めている。
後半の造成費は、国税局長が地域ごとに定めて毎年公表する。令和7年分(東京都)は次の金額になっている(国税庁「令和7年分 東京都 宅地造成費の金額表」https://www.rosenka.nta.go.jp/main_r07/tokyo/tokyo/others/pdf/d210300.pdf /2026年7月31日確認)。
| 工事費目 | 造成区分 | 金額 |
|---|---|---|
| 整地費 | 整地を必要とする面積1平方メートル当たり | 800円 |
| 伐採・抜根費 | 伐採・抜根を必要とする面積1平方メートル当たり | 1,100円 |
| 地盤改良費 | 地盤改良を必要とする面積1平方メートル当たり | 2,100円 |
| 土盛費 | 土盛りを必要とする場合の土盛り体積1立方メートル当たり | 7,800円 |
| 土止費 | 土止めを必要とする場合の擁壁の面積1平方メートル当たり | 83,600円 |
傾斜度が3度を超える土地は、表2の傾斜地の金額に切り替わる。3度超5度以下で22,900円、5度超10度以下で27,400円、10度超15度以下で42,600円、15度超20度以下で60,000円、20度超25度以下で66,500円、25度超30度以下で73,300円(いずれも1平方メートル当たり、同表)。傾斜地の金額には整地費・土盛費・土止費が含まれる一方、伐採・抜根費は含まれないため、必要なら別途加算する。
編集部が設例を置くとこうなる。地積1,000平方メートル、宅地としての価額が1平方メートル当たり12万円、平坦地で整地費だけを見込む場合、(120,000円−800円)×1,000平方メートル=1億1,920万円。造成費は評価額を1%も下げていない。一方、同じ土地が道路より低く土盛りと擁壁が要るとなれば、土盛費は体積、土止費は擁壁の面積で数量を積むことになり、控除額は一気に膨らむ。数量の測り方で結論が動くところが、市街地農地の評価がひとりで完結しない理由になる。
市街地周辺農地は80%、ただし掛けない場合がある
「周比準」の農地は、いったん市街地農地として評価してから80%を掛ける。宅地への転用が許可される地域の農地ではあるが、まだ現実に許可を受けていないことを考慮した扱いになる(No.4623、および前掲「令和7年分 東京都 宅地造成費の金額表」の留意事項)。
ここに、まとめ記事では飛ばされやすい分岐がある。宅地としての価額から造成費を引いた金額が、近隣の純農地に比準して評価した価額を下回るような土地、つまり経済合理性の観点から宅地への転用が見込めないと認められる市街地農地・市街地周辺農地は、宅地比準方式ではなく近隣の純農地の価額に比準して評価する。そして国税庁は、その純農地の価額に比準して評価する場合には「80%相当額に減額する必要はありません」と明記している(同留意事項の注書き)。
急傾斜で造成費が重い、擁壁を回さないと宅地にできない、といった農地は、宅地並みに高く評価されるどころか、農地としての水準まで戻る可能性がある。逆に言えば、造成費を積み上げた結果として評価額が純農地水準を割り込んだのに、そこからさらに80%を掛けて申告してしまう取り違えが起こり得る。どちらの土俵で評価しているのかを、途中で必ず確認しておく。
生産緑地と貸している農地は別枠になる
4区分の式に当てはめる前に、2つの例外を確認する。
生産緑地
生産緑地は、生産緑地でないものとして評価した価額から、一定割合を控除して評価する。課税時期に市町村長へ買取りの申出をすることができない生産緑地は、申出ができることとなる日までの期間に応じて、5年以下で10%、5年超10年以下で15%、10年超15年以下で20%、15年超20年以下で25%、20年超25年以下で30%、25年超30年以下で35%。買取りの申出をすることができる生産緑地は5%(国税庁タックスアンサーNo.4626「生産緑地の評価」、令和7年4月1日現在法令等。2026年7月31日確認)。
注意したいのは、被相続人がその生産緑地の主たる従事者だった場合は、買取りの申出をすることができる生産緑地として扱われる点になる。相続が起きた場面では控除割合が5%側に寄ることがあり、生産緑地だから大きく下がるとは限らない。
耕作権が設定されている農地
他人に貸して耕作されている農地は、自用地としての価額から耕作権の価額を控除して評価する(財産評価基本通達41、国税庁 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/02/09.htm /2026年7月31日確認)。永小作権が設定されている場合も同様に、その権利の価額を控除する。ただし、口約束の貸し借りや使用貸借がそのまま耕作権として扱われるわけではない。農地に権利が設定されているかどうかは、農業委員会で確認する。
区分ひとつで桁が変わる。固定資産税の額とも別物
ここまでの数字を並べると、農地の評価で最初に効くのは面積でも地目でもなく区分だと分かる。国税庁の掲載例では、田の固定資産税評価額50,000円に倍率48を掛けて240万円。前章の設例では、市街地農地の1,000平方メートルが1億1,920万円。前者と後者は面積の前提が違うため単純比較はできないが、農地としての値段で見るか、宅地になり得る土地として見るかで、評価の土俵そのものが入れ替わる。
そしてもうひとつ、混同が起きやすいのが固定資産税との関係になる。倍率方式で使うのは固定資産税評価額であって、毎年払っている固定資産税の税額ではない。農地の固定資産税は負担調整の仕組みがあり、税額が小さい、あるいは免税点に届かず課税されていない土地でも、評価額はゼロではない。「税金がかかっていないから相続税の評価もゼロ」という読み違えは、この2つを重ねたときに起きる。
相続税の評価額は、あくまで課税時期の財産の価額を出すための数字になる。売れる金額でもなければ、来年の固定資産税でもない。この記事の式で出した数字は、遺産の総額を組み立てるための1行だと考えておく。
評価額が出たあとにやること:基礎控除、10か月、猶予という分岐
農地の評価額が出たら、他の財産と合算して基礎控除と比べる。基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数(国税庁タックスアンサーNo.4152「相続税の計算」、令和7年4月1日現在法令等。2026年7月31日確認)。ここを超えなければ相続税の申告そのものが不要になる場合がある。
超えた場合の分岐が、農地等の納税猶予になる。農業を継続する、または特定貸付け等を行う農業相続人が取得した農地等について、一定の要件を満たすと納税が猶予される制度で、猶予額の計算の土台になるのが農業投資価格になる(国税庁タックスアンサーNo.4147「農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」)。
農業投資価格は都道府県ごと、地目ごとに10アール当たりで公表される。令和7年分の神奈川県は、田830千円、畑760千円、採草放牧地510千円(国税庁「令和7年分 神奈川県 農業投資価格の金額表」https://www.rosenka.nta.go.jp/main_r07/tokyo/kanagawa/others/pdf/d320400.pdf /2026年7月31日確認)。10アールは1,000平方メートルなので、田なら1平方メートル当たり830円という水準になる。前章の設例のように宅地比準方式で1億円台の評価が出る農地でも、猶予の計算では農業投資価格までが課税の土台になり、それを超える部分の相続税が猶予対象になるという構造になる。
ただしこの制度は、使った後の縛りが本体と言っていい。要件と打ち切り事由は別記事に分けている。農地の相続税の納税猶予|使うと縛られる条件
相続税とは別に、農地を相続したときは農業委員会への届出も要る。相続などにより農地の権利を取得した人は、権利の取得を知った日からおおむね10か月以内に届け出ることとされ、届出をしなかったり虚偽の届出をしたりすると10万円以下の過料に処されることがある(千葉市「相続等で農地の権利を取得したときの届出(農地法第3条の3)」https://www.city.chiba.jp/nogyo/souzoku-todokede.html /2026年7月31日確認)。手続の全体像は農地を相続したらまず何をする?届出と3つの選択肢にまとめている。
自分でどこまで出せて、どこから税理士に渡すか
編集部は士業ではない。個別の税額計算や遺産分割の判断はしないという前提で、線を引くとこうなる。
- 自分で出せる:評価倍率表の記号が「純」「中」の農地。固定資産税評価額と倍率を確認して掛けるだけで、金額の根拠も追える
- 専門家に渡したほうが早い:記号が「比準」「市比準」「周比準」の農地。宅地としての価額を出すための画地調整、造成費の数量の見積り、地積規模の大きな宅地の評価の適用可否など、判断の分かれ目が続く
- 最初から渡す:生産緑地、耕作権が設定されている農地、納税猶予を使うかどうかを含めて検討する場合
市街地周辺農地と市街地農地は、「市街地農地等の評価明細書」を使って評価することができるとされている(No.4623)。様式は国税庁サイトで手に入るので、自分で埋められるところまで埋めてから相談に行くと、話が具体的になる。
評価額の桁が読めない農地を持っているなら
区分が「比準」側だった、生産緑地が混じっている、納税猶予を使うかで結論が変わる。このどれかに当たるなら、申告期限から逆算して早めに相続税に強い税理士へ当てておく。
無料で相続税の相談をする農地の評価でつまずきやすい5つの点
1. 評価額が高い=売れる、ではない
宅地比準方式で高い評価が出る農地でも、転用許可や買い手の有無は別の話になる。評価額は課税のための価額であって、実際の売却価格を保証しない。
2. 売ったときの税金は評価とは別に発生する
相続した農地を売る場合、相続税とは別に譲渡所得の税金がかかる。取得費加算の特例には期限があるため、評価と同時に売却の税金も見ておく。相続した土地を売る税金|取得費加算と3年10か月の期限
3. 登記地目と現況が違う
登記上は畑でも、現況が耕作されていない、あるいは建物が建っているといったずれは珍しくない。区分の判定も固定資産税の課税も現況が起点になるため、まず現地と課税明細を突き合わせる。
4. 相続税がかからなくても手続はなくならない
基礎控除以下で申告が不要でも、相続登記と農業委員会への届出は残る。評価額の計算で止まると、期限のある手続を落とす。
5. とりあえず共有にすると出口が狭くなる
相続人全員の共有にすると、貸すにも売るにも転用するにも足並みをそろえる必要が出る。評価額を出す作業と、誰の名義にするかの検討は、同時に進めておいたほうが後が軽い。
確認先(一次ソース)
この記事の数値は、2026年7月31日にすべて発行元で確認している。制度と金額は年分で変わるため、実際の申告では相続開始の年分の資料を当てる。
- 国税庁 No.4623 農地の評価(令和7年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4623.htm
- 国税庁 評価倍率表(一般の土地等用)の説明 https://www.rosenka.nta.go.jp/docs/ref_rtof.htm
- 国税庁 財産評価基準書 路線価図・評価倍率表 https://www.rosenka.nta.go.jp/
- 国税庁 令和7年分 東京都 宅地造成費の金額表 https://www.rosenka.nta.go.jp/main_r07/tokyo/tokyo/others/pdf/d210300.pdf
- 国税庁 令和7年分 神奈川県 農業投資価格の金額表 https://www.rosenka.nta.go.jp/main_r07/tokyo/kanagawa/others/pdf/d320400.pdf
- 国税庁 No.4626 生産緑地の評価 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4626.htm
- 国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4147.htm
- 国税庁 No.4152 相続税の計算 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
区分の照会先は、農用地区域の内外が市町村の農政担当、農地法上の区分と権利設定の有無が農業委員会、固定資産税評価額が市区町村(東京23区は都税事務所)になる。
