空き家を無償で譲る方法|0円でも引き取り手がいない場合

0円でいいから手放したい、と調べ始めた時点で、打てる手はかなり絞られています。
結論から言うと、空き家の無償譲渡は成立します。止まるのは価格ではなく費用です。もらう側に贈与税・登録免許税2%・不動産取得税がかかり、自治体への寄付は建物が建っていると入口で外れます(2026年7月31日時点)。
この記事の目次
「無償で譲る」は、法律上は贈与として扱われる
0円で不動産を渡す行為は、売買ではなく贈与になる。代金のやり取りがない以上、譲る側に売却益は生まれず、負担は原則としてもらう側へ寄る。価格が0円なのに話がまとまらない理由は、ほぼここに集約される。
ただし、相手が個人か法人か、国・地方公共団体かで、課税される当事者が入れ替わる。国税庁の説明では、法人に対して財産を贈与した場合は時価で譲渡があったものとされ、譲る側に譲渡所得が生じる。一方、国または地方公共団体に対して財産を寄附した場合は、その寄附はなかったものとみなされる(国税庁 No.3105、2026年7月31日確認)。
| 譲る相手 | 譲る側 | もらう側 |
|---|---|---|
| 個人 | 対価が0円なので譲渡所得は生じないのが原則 | 贈与税(暦年課税・基礎控除110万円) |
| 法人 | 時価で譲渡したものとみなされ譲渡所得が生じ得る | 受贈益として法人税の対象 |
| 国・地方公共団体 | 寄附はなかったものとみなされる | ー |
個人どうしでも、著しく低い価額で財産を譲り受けた場合には、時価との差額が贈与とみなされる扱いがある。何をもって著しく低いとするかは個々の事案で判定され、法人へ譲渡した場合の「時価の2分の1」という基準とは別のものとされている(国税庁 No.4423、2026年7月31日確認)。編集部は士業ではないので、個別の税額計算や時価の評価はしない。金額が動く前に税理士に当てるのが安全な順番になる。
譲る相手は4種類。成立しやすい順に並べる
「誰でもいいから引き取ってほしい」と広く探すより、相手の種類ごとに成立条件が違うと理解したほうが早い。編集部が公開情報で確認できた範囲では、成立のしやすさは次の順になる。
1. 親族・知人・隣地の所有者
最も早い。特に隣地の所有者は、自分の土地と一体で使えるため動機がはっきりしている。境界の問題を同時に片づけられる利点もある。ただし相手にも贈与税・登録免許税・不動産取得税がかかるため、費用を誰が持つかを最初に決めておかないと途中で止まる。
2. マッチングサイト・空き家バンク
無償譲渡専門のマッチングサイトが実在する。「みんなの0円物件」(0円都市開発合同会社)は掲載自体は無料で、サイトは情報を載せるだけで不動産の仲介はしていないと報じられている(毎日新聞 2024年4月5日)。岡山県浅口市のように、自治体がこの事業者と連携して所有者へ無償譲渡という選択肢を案内している例もあり、市の案内では交渉や手続きを事業者に委託する場合は別途費用が発生すると明記されている(浅口市公式サイト、2026年7月31日確認)。
3. 法人・NPO・地域団体
倉庫、作業場、拠点として使い道がはまれば動く。ただし前述のとおり、法人へ贈与すると譲る側に時価での譲渡があったものとみなされる。売れない空き家は時価そのものが低いのが通常だが、判断は税理士に確認する範囲になる。
4. 自治体・国
最も成立しにくい。理由は後述するが、建物が建っているという一点で外れることが多い。
もらう側にいくらかかるか。0円でも断られる本当の理由
引き取り手が見つからない原因の大半は、物件そのものより、もらった瞬間に発生する現金の支出にある。無償で受け取る側に生じる主な負担は次のとおり。
- 贈与税:個人から個人への無償譲渡は贈与にあたる。暦年課税の基礎控除は年110万円で、一般贈与財産の税率は200万円以下10%、300万円以下15%(控除10万円)、400万円以下20%(控除25万円)と積み上がる(国税庁 No.4408、2026年7月31日確認)。仮に土地と建物の評価額の合計が300万円なら、110万円を引いた190万円に10%で19万円という計算になる。
- 登録免許税:所有権移転登記のうち、贈与によるものは不動産の価額の1000分の20(2%)。相続の1000分の4に比べて5倍の開きがある(国税庁 No.7191、2026年7月31日確認)。
- 不動産取得税:東京都の場合、土地の税率は3%で、宅地等は令和9年3月31日までの取得なら課税標準が価格の2分の1になる。免税点があり、令和8年4月1日以後の取得では土地16万円、家屋(新築等以外)34万円に満たなければ課税されない(東京都主税局、2026年7月31日確認)。税率と特例は自治体の公式ページで必ず現時点の内容を確認する。
- 登記と契約の実費:司法書士へ登記を依頼する報酬は事務所ごとに幅があり、民間各社の解説では3万〜10万円程度が目安として示されている。
- 残置物の処分と修繕:家財が残ったままの物件は、片づけ費用が実質的な取得価格になる。
譲る側にかかる費用と、渡した後に残るもの
譲る側は代金を受け取らないので身軽に見えるが、実際には出ていくものがある。
- 贈与契約書の作成:無償でも所有権を移す以上、書面が要る。後から「聞いていない」が出ないよう、現況有姿で引き渡すこと、引き渡し後の不具合について責任をどこまで負うかを明記しておく。
- 境界と測量:隣地との境界が確定していないと、相手側の司法書士や金融機関の段階で止まる。確定測量が必要になれば費用は数十万円規模まで振れる。
- 残置物の撤去:仏壇、家財、農機具などを残したまま渡そうとすると、そこが最後の争点になりやすい。
- 登記費用の分担:法律上は取得者の負担が原則だが、実務では譲る側が持つことで話がまとまる例が多い。0円譲渡は「費用を持ってでも手放す」判断だと割り切ると交渉が早い。
渡した後に残るものもある。所有権移転登記まで終わっていなければ、固定資産税の納税通知は元の名義人へ届き続ける。契約書を交わしただけで登記を後回しにすると、名義と実態がずれたまま次の相続が起き、話が二重にこじれる。
0円で出しても引き取り手が現れない5つの理由
掲載しても反応がないとき、価格を下げる余地はもうない。詰まっているのは別の場所にある。
- 再建築ができない:接道の条件を満たさない土地は、建て替えができない。取得後の出口が消えるため、事業者も個人も動かない。
- 修繕費が取得価値を上回る:雨漏り、シロアリ、水回りの全交換が重なると、住める状態にするまでの費用が中古住宅の購入費を超える。
- 残置物が入ったまま:写真に家財が写っている物件は、それだけで問い合わせが減る。片づけ費用が見えないためリスクとして扱われる。
- 境界と権利関係が未整理:共有名義で全員の同意が取れていない、相続登記が終わっていない物件は、交渉の途中で必ず止まる。
- 取得後のランニングコストが読めない:固定資産税、火災保険、草刈り、浄化槽の維持。毎年出ていく金額が示せないと、相手は判断できない。
編集部も沖縄の傾斜地を相続し、出口が見つからないまま保有を続けている。固定資産税は年約7万円で、金額そのものより、出口が決まらないまま毎年出ていく構図のほうが重い。売れない理由の切り分けは実家が売れない理由と、値下げ以外に打てる手で扱っている。
自治体や国は引き取ってくれるか
「市に寄付すればいい」という発想は自然だが、公開されている受理基準を読むと難しさが分かる。新潟市の土地の寄附に関する案内では、受理の条件として行政活用価値または換価価値が見込まれること、将来に紛争や苦情が発生するおそれがないこと、将来過大な維持管理費が見込まれないことなどが並ぶ。そして受け付けないものとして「建物等が付属する土地」が明記されている(新潟市公式サイト、2026年7月31日確認)。空き家をそのまま寄付する道は、この一行で閉じる。
国が引き取る相続土地国庫帰属制度も同じ壁がある。法務省の申請の手引きでは、却下事由の筆頭に「建物がある土地」が挙げられている。担保権や使用収益権が設定されている土地、土壌汚染されている土地、境界が明らかでない土地も却下事由になる。審査手数料は土地一筆当たり14,000円、承認後の負担金は国有地の種目ごとに管理に要する10年分の標準的な費用を考慮して算定される(法務省、2026年7月31日確認)。
つまり、公的な引き取りを土俵に乗せたいなら、先に建物を解体して更地にする必要がある。解体には費用がかかり、更地にすると土地の固定資産税の軽減も外れる。ここが多くの人の止まる地点になる。
譲る前に必ず片づける3つのこと
相手が見つかってから慌てる項目は決まっている。掲載や声かけの前に潰しておく。
相続登記が終わっているか
亡くなった親の名義のままでは譲れない。相続登記の申請は2024年(令和6年)4月1日から義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請する必要がある。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になる。遺産分割がまとまらない場合は、期限内に相続人申告登記を行うことで義務を履行できるが、売却や担保設定には従来の相続登記が必要になる(法務省、2026年7月31日確認)。
共有者の全員が同意しているか
兄弟の共有名義になっている空き家は珍しくない。1人でも連絡が取れなければ手続きは進まない。相続放棄をした人がいる場合の管理義務の扱いは空き家を相続放棄しても管理義務は残る?で整理している。
境界と残置物の状態を写真で出せるか
境界標の有無、隣地との越境、残っている家財。この3点を先に撮っておくと、交渉が「見てから決める」ではなく「条件を詰める」から始まる。都合の悪い箇所を隠すと、引き渡し後の争いになって戻ってくる。
引き取り手がいないときに残る4つの選択肢
無償譲渡が動かないとき、選択肢は消えるわけではなく組み替わる。手放す方法の全体像は空き家の処分方法4つ|売る、貸す、解体、譲るにまとめている。
1. 0円と決める前に、値段が付くか確かめる
相続した空き家を売る場合、一定の要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円が控除される特例がある。適用期間は令和9年12月31日までの譲渡で、相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること、売却代金が1億円以下であること、家屋が昭和56年5月31日以前に建築されたことなどが条件になる。令和6年1月1日以後の譲渡で、取得した相続人の数が3人以上の場合は控除額が2,000万円になる(国税庁 No.3306、2026年7月31日確認)。0円で渡せばこの枠は一切使われない。
2. 解体して土地として出す
建物が足を引っ張っている場合は、更地のほうが売れる。ただし住宅用地特例が外れて土地の固定資産税が上がるため、解体から売却までの期間を短く設計する。
3. 貸す・活用する
賃貸、駐車場、資材置き場。周辺に需要があるかで結論が変わるので、机上ではなく地域の事業者に当てて判断する。
4. 保有を続け、出ていく額を最小化する
出口が決まらないなら、火災保険、草刈り、通報リスクの3つに絞って管理コストを固定する。判断を先送りにするのではなく、次に動く条件を自分で決めておく。
放置を選んだ場合に起きること
「誰にも渡せないので、そのままにする」を選ぶなら、税制上の変化を織り込んでおく必要がある。
住宅が建っている土地には住宅用地特例が適用され、固定資産税の課税標準が200平方メートル以下の部分は6分の1、200平方メートルを超える部分は3分の1に減額される(政府広報オンライン、2026年7月31日確認)。この軽減は、2023年(令和5年)12月13日に施行された改正空家法により、特定空家等だけでなく、放置すれば特定空家等に該当するおそれのある「管理不全空家等」として勧告を受けた場合にも解除される(国土交通省、2026年7月31日確認)。
草木の繁茂や外壁の破損で市区町村から指導が入り、改善しないまま勧告に至ると、土地の税負担が跳ね上がる。解体しても軽減は外れるので、税だけを理由に建物を残す判断は、この改正以降は成立しにくくなっている。
使用目的のない空き家は20年でおよそ2倍に増え、平成15年の212万戸から令和5年には386万戸になっている(国土交通省 空き家対策特設サイト、2026年7月31日確認)。行政の側も放置を前提にしていない、という前提で動いたほうがよい。
譲渡が決まってからの手順と書類
相手が決まったあとの流れは、有償の売買とほぼ同じ形をたどる。
- 権利関係の確認:登記簿で名義、抵当権、共有者を確認する。相続登記が未了ならここで完了させる。
- 現況の共有:境界標、残置物、雨漏りや傾きなど不具合を書面と写真で相手へ渡す。
- 条件の合意:登記費用、残置物の処分、引き渡し時期、費用の分担を決める。誰が何を負担するかを一行ずつ書き出す。
- 贈与契約書の作成:現況有姿である旨、責任の範囲、引き渡し日を明記する。不安があれば司法書士や行政書士に確認する。
- 所有権移転登記:登録免許税を納付して申請する。ここまで終わって初めて名義が移る。
- 付帯契約の整理:電気、水道、ガス、浄化槽の維持管理契約、火災保険の名義を切り替える。
登記まで終えたら、翌年度の固定資産税の課税がどちらに来るかを役所の資産税担当に確認しておく。年の途中で名義が移った場合、その年度の納税義務者は1月1日時点の所有者になるため、精算の取り決めがないと後で揉める。
よくある質問
ジモティーなどの掲示板で譲ってもいいですか
個人間で相手を探す手段としては成立する。ただし掲示板は情報を載せる場であり、契約書の作成や登記は当事者が自分で手配する。相手の身元確認と書面の整備は自分の責任範囲になると考えておく。
無償譲渡なら仲介手数料はかかりませんか
当事者どうしで直接やり取りするマッチングサイト経由なら仲介は入らない。一方、交渉や手続きを事業者に委託する形を選べば別途費用が発生する(浅口市公式サイト、2026年7月31日確認)。費用ゼロで完結する方法ではない。
親から子へ0円で渡すのはどうですか
贈与になるため、受け取る子に贈与税が生じ得る。相続で引き継ぐ場合と比べて登録免許税も5倍(1000分の4に対し1000分の20)になる。生前に動かすか相続まで待つかは税額の比較の話になるので、税理士に当てる。
建物を解体してから国に引き取ってもらえますか
建物がある土地は相続土地国庫帰属制度の却下事由なので、解体は前提条件になる。ただし解体すれば必ず承認されるわけではなく、境界が明らかでない土地や争いがある土地も却下事由に含まれる(法務省、2026年7月31日確認)。解体費用を出す前に、他の却下事由に当たらないかを確認する。
相続放棄すれば関わらずに済みますか
放棄には期限があり、他の財産もまとめて放棄することになる。放棄後の管理義務の扱いは誤解が多いため、空き家を相続放棄しても管理義務は残る?で条件を確認してから判断する。
