マンションを相続したら|管理費と売却の順番
マンションの相続を調べると、名義変更の手順から始まる記事がほとんどです。
先に動くのは名義ではなくお金で、管理費と修繕積立金は誰の名義か決まる前から毎月出ていきます。全国平均は合わせて月2万4千円台、年に直すと29万円台です。売るか持つかの順番は、この出方に合わせて組みます。
この記事の目次
名義が決まる前から、管理費と修繕積立金は毎月出ていく
マンションが戸建てと違うのは、空にしても止まらない支払いがあることです。国土交通省の令和5年度マンション総合調査では、駐車場使用料等からの充当額を除く月/戸当たりの管理費の平均は11,503円、修繕積立金の平均は13,054円でした(出典:国土交通省 令和5年度マンション総合調査結果〔概要編〕・2026年7月31日確認)。合わせて月24,557円、年に直すと約29万円です。ここに固定資産税と都市計画税が乗ります。
| 毎月出ていくもの | 全国平均(月/戸) | 空にすると止まるか |
|---|---|---|
| 管理費 | 11,503円 | 止まらない |
| 修繕積立金 | 13,054円 | 止まらない |
| 固定資産税・都市計画税 | 物件ごと | 止まらない |
| 電気・ガス・水道 | 物件ごと | 止められる |
誰が払うのかは、遺産分割が決まるまでは相続人全員です。相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると民法第896条が定めているため、被相続人が滞納していた分もそのまま引き継ぎます(出典:e-Gov法令検索 民法・2026年7月31日確認)。協議が長引いても請求は止まりません。
管理組合への届出は、名義変更とは別に要る
国土交通省のマンション標準管理規約(単棟型)第31条は、新たに組合員の資格を取得し、または喪失した者は直ちにその旨を書面により管理組合に届け出なければならないと定めています(出典:国土交通省 マンション標準管理規約・2026年7月31日確認)。実際の文言は各マンションの規約によりますが、届出をしないと総会の通知も修繕積立金の値上げの案内も届きません。連絡先が古いままだと、知らないうちに負担だけが決まります。
動かせない日付は四つ。判断する場所は三箇所しかない
期限のあるものだけを並べると、自分で決める場所がどこかが見えます。ほかは手続きであって、判断ではありません。
| 期限 | 何の期限か | 過ぎるとどうなるか |
|---|---|---|
| 3ヶ月 | 相続の承認または放棄(民法第915条第1項) | 原則として放棄できなくなる |
| 10ヶ月 | 相続税の申告と納税 | 未分割のままだと使えない特例がある |
| 3年 | 相続登記の申請義務 | 10万円以下の過料の適用対象になる |
| 申告期限の翌日以後3年 | 取得費加算の特例が使える期間 | 譲渡益から差し引ける相続税額がなくなる |
この四つのうち、判断が要るのは三箇所です。3ヶ月の時点で引き継ぐかどうか、10ヶ月の時点で誰の名義にするか、そこから3年の間に売るかどうか。順番を入れ替えると、後ろの選択肢のほうが先に消えます。
相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。分割協議が終わっていなくても期限は延びず、その場合は民法に規定する相続分に従って取得したものとして申告することになります(出典:国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告・2026年7月31日確認)。マンションは物理的に分けられないので、ここで止まる家が多い場所です。
相続登記は3年以内の義務。先に取るのは登記事項証明書
相続で不動産を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつその不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をする義務があります。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の適用対象です。施行は令和6年4月1日で、施行日より前に相続したことを知っていた不動産については令和9年3月31日までに申請する必要があります(出典:法務省 相続登記の申請義務化に関するQ&A・2026年7月31日確認)。売るために登記するのではなく、登記そのものが義務になっている点が以前と違います。
登録免許税は、相続による所有権移転登記で不動産の価額の1,000分の4です。課税標準となる不動産の価額は、原則として固定資産課税台帳に登録された価格になります(出典:国税庁 No.7191 登録免許税の税額表・2026年7月31日確認)。司法書士に頼む場合の報酬は事務所ごとに違うため、金額は見積もりで確認してください。編集部として一律の相場は出しません。
敷地権の表示があるかを最初に見る
マンションの登記事項証明書は、所有する部屋ごとに作られています。敷地権の表示があれば建物と敷地の権利が一体で動きますが、古い物件では敷地権の登記がされておらず、土地の共有持分について別に登記が必要になることがあります。証明書は法務局の窓口のほかオンラインでも取れます。表示の有無を確かめてから、法務局の登記手続案内か司法書士に申請の作り方を聞くと、二度手間になりません。
分け方は四つ。共有にすると、その後が動かなくなる
マンションは切り分けられません。分け方は四つあり、どれを選ぶかで後の手間が変わります。遺産の分割は、遺産に属する物や権利の種類と性質、各相続人の年齢や職業、心身の状態や生活の状況その他一切の事情を考慮して行うと民法第906条が定めています。
| 分け方 | やること | 向いている場面 | 詰まる点 |
|---|---|---|---|
| 現物分割 | マンションを一人が取得し、預貯金など他の財産を別の相続人が取る | ほかに分けられる財産がある | 財産の総額が釣り合わない |
| 代償分割 | 一人が取得し、他の相続人に現金で差額を渡す | 住み続ける人がいる | 渡す側に現金が要る |
| 換価分割 | 売って、代金を分ける | 誰も住まない | 売れるまで管理費が出続ける |
| 共有 | 持分を決めて全員の名義にする | その場は決めなくて済む | 売るとき全員が売主になる必要がある |
いちばん選ばれやすく、いちばん後で効いてくるのが共有です。共有物に変更を加えるには他の共有者の同意が必要で、管理に関する事項は各共有者の持分の価格に従いその過半数で決めると民法第251条第1項と第252条第1項が定めています(e-Gov法令検索 民法・2026年7月31日確認)。部屋全体を買い手に渡すには共有者の全員が売主になる必要があり、一人が連絡を絶つだけで手続きが止まります。その間も管理費と修繕積立金は、持分に応じて全員に乗り続けます。
相続税。マンションの評価は令和6年1月から変わった
令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産、いわゆる分譲マンションの一室は、区分所有補正率を使って評価します。築年数、総階数指数、所在階、敷地持分狭小度の四つから評価乖離率を求め、そこから出す評価水準によって扱いが分かれます(出典:国税庁 No.4667 居住用の区分所有財産の評価・2026年7月31日確認)。
| 評価水準 | 区分所有補正率 |
|---|---|
| 0.6未満 | 評価乖離率×0.6 |
| 0.6以上1以下 | 補正なし(従来どおりの評価) |
| 1超 | 評価乖離率 |
対象から除かれるものもあります。区分建物の登記がないもの、地階を除く総階数が2以下のもの、居住用の専有部分一室の数が3以下でそのすべてを区分所有者またはその親族の居住の用に供するもの、事業用のテナント物件などです。親族だけで使っている小さな共同住宅は、この通達の外側にあります。
基礎控除と、敷地利用権にかかる特例
相続税がかかるかどうかは、課税価格の合計額が基礎控除額を超えるかで決まります。基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数です(出典:国税庁 No.4152 相続税の計算・2026年7月31日確認)。
小規模宅地等の特例では、特定居住用宅地等は330平方メートルまで評価額が80%減額されます。ここでいう宅地等は土地または土地の上に存する権利を指すため、マンションの敷地利用権も土俵に乗ります(出典:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例・2026年7月31日確認)。ただし要件は取得する人ごとに違い、配偶者、同居していた親族、持ち家のない親族で条件が別に定められています。
気をつける場所は未分割のときで、分割されていない財産については小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も使えません。申告期限から3年以内に分割された場合に限って、後から適用を受けられます(国税庁 No.4208)。誰の名義にするかを10ヶ月以内に決められるかどうかが、そのまま税額の差になります。
編集部は士業ではないので、個別の税額計算はしません。自分の場合にいくらになるのかは、税理士か所轄の税務署に確認してください。
住む、貸す、売る、持ち続ける。判定が分かれる線
選択肢は四つありますが、マンションでは持ち続ける負担の出方が戸建てと違います。毎月の固定費が規約と総会で決まっていて、自分の努力では下げられないからです。
| 選ぶ道 | 毎月の出 | 先に確認するもの | 詰まりやすい点 |
|---|---|---|---|
| 相続人が住む | 管理費+積立金+税 | 他の相続人の同意、通える距離か | 他の相続人へ渡す代償金の額 |
| 貸す | 同上+管理委託料 | 規約の賃貸に関する定め、原状回復の見積もり | 空室でも管理費は出続ける |
| 売る | 引き渡しまで | 名義、滞納の有無、相場 | 共有のままだと全員の同意が要る |
| 持ち続ける | 管理費+積立金+税 | 長期修繕計画と積立金の見通し | 積立金の値上げと一時金 |
持ち続ける判断をするなら、そのマンションの先行きを数字で見ておく必要があります。国土交通省の同じ調査では、管理費または修繕積立金を3ヶ月以上滞納している住戸があるマンションは30.1%、管理組合運営における将来への不安は区分所有者の高齢化が57.6%、居住者の高齢化が46.1%、修繕積立金の不足が39.6%でした。修繕積立金の積立方式は、均等積立方式が40.5%に対して段階増額積立方式が47.1%です(国土交通省 令和5年度マンション総合調査結果〔概要編〕・2026年7月31日確認)。半数近くが、将来の値上げを前提に積んでいる計算になります。
空室(3ヶ月以上)がないマンションは55.4%で、前回調査の47.9%から増えています。裏返せば、空室を抱えたままのマンションが4割ほど残っているということです。誰も住まなくなった部屋は、その一戸に数えられます。
住宅ローンが残っている場合は、団体信用生命保険に加入していたかどうかで扱いが変わります。残高と保険の有無は借入先の金融機関に確認してください。返済が続く前提なのか、完済されて抵当権の抹消だけが残るのかで、売却の日程が変わります。
戸建てとの決定的な違い。空き家の3000万円特別控除は使えない
相続した実家を売るときによく使われるのが、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例です。マンションはこの入口で外れます。適用要件に、区分所有建物登記がされている建物でないこと、が入っているためです(出典:国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例・2026年7月31日確認)。
| 要件 | 内容 | 分譲マンションの場合 |
|---|---|---|
| 建築時期 | 昭和56年5月31日以前に建築されたこと | 物件による |
| 建物の形 | 区分所有建物登記がされている建物でないこと | ここで外れる |
| 居住状況 | 相続の開始の直前に被相続人以外に居住していた人がいないこと | 物件による |
| 売却期限 | 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで | 対象外 |
この特例は平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡が対象で、売却代金1億円以下という上限があり、令和6年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上いる場合の控除額は2,000万円です。戸建ての実家を持つ人には効きますが、マンションの相続では最初から数えられません。控除ありきで売却の日程を組むと、手取りの計算が狂います。
代わりに数えられるもの
相続税を納めた人であれば、取得費加算の特例が使えます。相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡すると、納めた相続税額のうち一定額を取得費に加算できます。加算する額が、この特例を適用しないで計算した譲渡益を超える場合は、その譲渡益相当額が上限です(出典:国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例・2026年7月31日確認)。
所有期間の数え方も味方になります。相続や贈与によって取得したときは、被相続人や贈与者の取得の時期がそのまま引き継がれるため、被相続人が取得した時から譲渡した年の1月1日までの期間で長期か短期かを判定します(出典:国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期・2026年7月31日確認)。親が長く住んでいたマンションなら、相続してすぐ売っても長期譲渡所得の扱いになります。長期の税率は所得税15%、住民税5%で、別に復興特別所得税として基準所得税額の2.1%がかかります(出典:国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算・2026年7月31日確認)。
売ると決めたときの順番。滞納の確認を査定より前に置く
手順そのものは戸建てと似ていますが、マンションでは滞納の確認が査定より前に来ます。金額がそのまま価格交渉に乗るからです。
- 登記事項証明書を取り、名義と敷地権の表示を確かめる
- 管理組合または管理会社に、管理費と修繕積立金の残高と滞納の有無を照会する
- 長期修繕計画と、積立金の値上げ予定、次の大規模修繕の時期を確認する
- 誰の名義にするかを決め、相続登記を済ませる
- 相場を公表値で自分で当たる
- 室内の残置物をいつまでに片付けるかを決める
- そのうえで複数社の査定を並べ、媒介契約を結ぶ
滞納がある場合の扱いは二段になります。相続人は民法第896条により被相続人の債務を承継します。買主のほうは、建物の区分所有等に関する法律第8条が、管理費などの債権は債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができると定めているため、放置したまま売れば買主が請求を受ける立場になります(出典:e-Gov法令検索 建物の区分所有等に関する法律・2026年7月31日確認)。だから売買では引き渡しまでに精算するのが通常で、滞納額はそのまま値引きの材料になります。先に残高を知っておくほうが立場が強くなります。
相場は査定を頼む前に自分で当たれます。手順と公表値の見方は実家を売る手順と相場の調べ方にまとめています。マンションは同じ建物の別の部屋という比較対象があるぶん、戸建てより自分で当たりやすい部類です。
水準を押さえたあとで、実物の提案を並べる
査定は売る約束ではありません。公表値で押さえた水準と、会社の提案額の差がどこから来るのかを複数並べて聞くと、管理費が出続ける期間をどこまで短くできるかの材料がそろいます。
無料で査定額を調べる相続放棄で管理費から抜けられるか
抜けられます。相続の放棄をした者は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされるため(民法第939条)、放棄した後に発生する管理費の負担者にはなりません。
ただし続きがあります。民法第940条第1項は、相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもってその財産を保存しなければならないと定めています(e-Gov法令検索 民法・2026年7月31日確認)。同居していた部屋をそのまま使っている場合と、遠方で鍵も持っていない場合とでは、放棄した後の立場が変わります。
期限は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内です(民法第915条第1項)。申述先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で、費用は申述人1人につき収入印紙800円と連絡用の郵便切手です(出典:裁判所 相続の放棄の申述・2026年7月31日確認)。
判断がずれやすい四つ
調べているうちに前提がずれる場所は決まっています。
査定額と手取りは別物
査定額から仲介手数料、印紙税、登記の費用、譲渡所得にかかる税が引かれます。相続税を納めた人は取得費加算で圧縮できる余地がありますが、期限つきです。実家じまい全体でいくら出ていくかは実家じまいの費用は総額いくらで項目別に整理しています。
分割協議が終わらなくても、申告期限は来る
10ヶ月は待ってくれません。未分割のまま相続分で申告すると、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減はいったん使えず、申告期限から3年以内に分割できた場合に限って後から適用されます。
修繕積立金は下がる方に動きにくい
段階増額積立方式が47.1%を占める以上、多くの物件で額が上がる前提になっています。今の月額のまま10年持ち続けた計算をすると、負担を小さく見積もることになります。
空室でも支払いは止まらない
誰も住んでいない、電気も止めた、それでも管理費と修繕積立金は請求されます。判断を先送りした期間は、そのまま月2万円台の支出として積み上がります。
誰に何を聞くか。編集部が判断しない範囲
マンションの相続は、聞く相手が分野ごとに分かれます。編集部は士業ではないため、法令の解釈、個別の税額計算、遺産分割の判断はしません。
| 困っている内容 | 聞く相手 |
|---|---|
| 相続税がかかるか、いくらか | 税理士、所轄の税務署 |
| 分割の話がまとまらない | 弁護士、家庭裁判所の遺産分割調停 |
| 登記の書類と申請の作り方 | 司法書士、法務局の登記手続案内 |
| 滞納額、規約、値上げの予定 | 管理組合の理事長、管理会社 |
| 相場と売り出しの条件 | 複数の不動産会社 |
順番だけ置き直すと、3ヶ月で引き継ぐかを決め、10ヶ月までに名義を決め、そこから3年の間に売るかを決める、この三段です。片付けから墓や土地までを含めた全体の順番は実家じまいとは?進め方と費用の全体像にまとめています。マンションはその中でも、待つほど費用が出続ける種類の資産です。
