実家じまいでやってはいけない5つの手順ミス

実家じまいで「やってはいけない」を先に調べているなら、まだ順番は組み直せる。
損は行動の中身より順番で出る。片付け・解体・売却を先に動かすと、空き家の3,000万円特別控除(期限は相続開始からおよそ3年)や固定資産税の住宅用地特例が消える。先にやると損をする5つを、正しい置き場所に並べ直す。
この記事の目次
先に動かすと損をする5つと、本来の置き場所
実家じまいでやってはいけないことは、多くの記事で行動のリストとして並ぶ。ただ実際にお金が減るのは、行動の中身より着手の順番であることが多い。同じ作業でも置く位置が違うと、使えたはずの控除や特例が先に消える。
先に動かすと損をしやすい作業は5つ。何が消えるか、本来どこに置くべきかを先に並べる。
| 先に動かすと損をする作業 | 消えるもの | 本来の位置 |
|---|---|---|
| 家財の片付け | 取得費が分かる書類、相続放棄という選択肢 | 名義と出口が決まった後 |
| 名義の放置(何もしない) | 売却・解体・補助金の入口すべて | 最初にやる |
| 建物の解体 | 固定資産税の住宅用地特例、控除の組み立て直し | 売り方が決まった後 |
| 売る/保留の決断 | 空き家の3,000万円特別控除、取得費加算の特例 | 期限を確認した後 |
| 業者との契約 | 相見積りの比較材料、自治体の補助金 | 見積りを2〜3社そろえた後 |
本文の制度・金額は2026年7月31日時点で、国税庁・法務省・国土交通省・裁判所・各市の公式ページを確認した内容。年度で変わるため、動く前に同じページで現況を見ておく。
ミス1|家財の片付けから始める
実家に入って最初に手が伸びるのは家財。ただ、家財を先に運び出すと、あとで金額に直結する紙が一緒に消える。
消えると取り返せない書類
- 登記識別情報通知(権利証)。再発行されない
- 親が家を買ったときの売買契約書と領収書。取得費の証拠になる
- 固定資産税の納税通知書、火災保険の証券、リフォームの請負契約書
売買契約書が見つからないと、譲渡所得の計算で取得費が分からない扱いになる。その場合は売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができる(国税庁「No.3258 取得費が分からないとき」)。3,000万円で売れた家なら取得費は150万円として計算されるため、実際の購入額が分かる場合に比べて課税される譲渡所得が大きく膨らむ。紙一枚の有無で税額が動く。
相続放棄を少しでも考えているなら、家財に触る前に止まる
相続放棄の申述は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内(裁判所「相続の放棄の申述」。収入印紙は申述人1人につき800円)。この期間内であっても、相続財産の全部または一部を処分すると単純承認をしたものとみなされ、放棄が選べなくなるとされている(民法921条1号)。家財の処分がこれに当たるかは中身と事情による。編集部は士業ではないので線引きの判断はしない。負債の有無が分からないうちは、家庭裁判所または弁護士に確認してから手をつける。
片付け自体の進め方は実家の片付けが進まないときの順番|親が生きている場合で扱っている。
ミス2|名義の確認と相続登記を後回しにする
名義が親のままでも、日常生活では何も起きない。困るのは売る・壊す・貸す、つまり実家じまいのすべての出口に入ろうとした瞬間。
3年という期限がついた
相続登記の申請は令和6年(2024年)4月1日から義務化された。不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請せず、正当な理由がないときは10万円以下の過料の対象になる(法務省「相続登記の申請義務化について」)。義務化より前に相続していた不動産も対象で、この場合の期限は令和9年(2027年)3月31日まで。
遺産分割がまとまらないときは、相続人申告登記という簡易な手続きがある。特定の相続人が単独で、自分が相続人であることを登記官に申し出れば、申請義務を履行したものとみなされる。ただし各相続人が個別に申し出る必要がある。
共有名義は公平ではなく停止になりやすい
- 売却も解体も共有者全員の同意が要る。1人が連絡不通になると止まる
- 共有者の誰かが亡くなると持分がさらに分かれ、権利者が増える
- 自治体の解体補助金でも、共有者・相続人全員の同意書や納税証明を求める例がある(長野市「老朽危険空き家の解体工事補助金」の必要書類)
結論が出ないから共有にする、は先送りであって解決ではない。手続きの重さが次の世代に移るだけになる。
ミス3|売り方を決める前に解体する
建物さえ無くなれば売りやすい、という感覚は間違ってはいない。ただし壊す時期を間違えると、税金と控除の両方で損をする。
更地にすると固定資産税の軽減が外れる
住宅が建っている土地は、200平方メートル以下の部分(小規模住宅用地)で課税標準が6分の1、200平方メートルを超える部分(一般住宅用地)で3分の1に軽減されている(国土交通省「固定資産税等の住宅用地特例に係る空き家対策上の措置」)。建物を解体して更地にすると、この軽減の前提が無くなる。
放置しても同じ結末になりうる
令和5年(2023年)12月13日に施行された改正空家法では、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある空家等を管理不全空家等とし、市区町村長が指導・勧告できるようになった。勧告を受けた管理不全空家等の敷地は、特定空家等と同じく住宅用地特例の適用対象から除外される。特定空家等で命令に従わない場合は50万円以下の過料の対象にもなる(国土交通省の空家法関連資料)。
つまり、壊しても放置しても軽減が外れる可能性がある。判断材料は壊すかどうかではなく、壊した土地をいつ引き渡すか。
先に自費で壊す前提は、以前より薄い
空き家の3,000万円特別控除は、家屋が一定の耐震基準を満たすか、全部を取り壊していることが要件になる。令和6年(2024年)1月1日以後の譲渡では、譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に耐震基準を満たすこととなったか、家屋の全部の取壊し等が行われた場合も対象になる(国税庁「No.3306」)。買主側の工事でも間に合う設計になったため、売る前に自費で更地にする一択ではなくなった。
出口そのものの選び方は実家を処分する4つの出口|売る・貸す・解体・手放すで比較している。
ミス4|期限を見ないまま売る、または保留する
売却で損をするパターンは2つある。期限を知らずに保留し続けるのと、期限を知らないまま慌てて売るの両方。
逆算に使う4つの期限
| 期限 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 3か月 | 相続放棄・限定承認の申述(相続の開始を知ったときから) | 裁判所 |
| 10か月 | 相続税の申告と納税(死亡を知った日の翌日から) | 国税庁 No.4205 |
| 3年を経過する日の属する年の12月31日 | 空き家の3,000万円特別控除の譲渡期限 | 国税庁 No.3306 |
| およそ3年10か月 | 取得費加算の特例(申告期限の翌日以後3年) | 国税庁 No.3267 |
空き家の特別控除は、平成28年4月1日から令和9年(2027年)12月31日までの譲渡が対象。相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが要件で、相続人が3人以上いる場合、令和6年1月1日以後の譲渡では控除額が3,000万円ではなく2,000万円になる。
取得費加算の特例は、相続または遺贈で財産を取得し、相続税が課税された人が対象。相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡すると、納めた相続税の一部を取得費に加算できる。申告期限が10か月なので、実質は相続開始からおよそ3年10か月。
3年あるという読み方
期限の裏を返せば、査定を複数取って比べる時間は確保されている。相続直後の数か月で、最初に来た1社の提示額に合わせて売り切る必要はない。逆に3年目に入ってから動き始めると、片付け・登記・売却活動が同じ時期に重なる。動き出す目安は2年目まで。
ミス5|最初に来た1社と契約してしまう
解体、片付け、売却のどれでも、最初に見た数字が基準になってしまう。比較対象が無いと、その金額が高いのか安いのかを判断できない。
見積書で見る欄
- 本体工事と付帯工事が分かれているか(ブロック塀、門扉、樹木、物置、浄化槽、井戸)
- 残置物(家財)の処分が含まれるか、別料金か
- 整地の仕上げ、つまり引き渡し時の地面の状態がどこまでか
- 追加請求が発生する条件が書面に書かれているか
補助金は契約前に確認する
自治体の解体補助金には、交付決定より前に着手した工事を対象外にしているものがある。名古屋市は「補助金の交付決定前に着手した工事は対象外となります」と明記し、松山市も交付決定通知の前に請負契約を締結しないよう注意を出している(いずれも2026年7月31日時点の各市公式ページ)。北九州市のように、予算枠に達した時点で受付を終了する運用もある。
業者を決める前に、実家のある市区町村の担当課へ補助制度の有無と申請の順番を聞く。この電話1本が、順番のミスを一番安く防ぐ。
5つを避けると、順番はこうなる
先に動かすと損をする5つを外していくと、工程は自動的にこの並びになる。
- 書類を探す。権利証(登記識別情報通知)、売買契約書、固定資産税の納税通知書、保険証券。家財より先にこれだけ回収する
- 相続人と負債を確認する。放棄を検討するなら3か月以内。家財に手をつける前に判断する
- 名義を移す。相続登記は3年以内。分割が長引くなら相続人申告登記で義務だけ先に履行する
- 出口を決める。売る・貸す・解体・手放すのどれか。ここで初めて解体の要否が決まる
- 期限から逆算する。3,000万円控除と取得費加算の日付をカレンダーに置く
- 見積りを2〜3社そろえる。解体も査定も。補助金は契約前に自治体へ確認する
- 片付けて引き渡す。残置物ごと引き取れる契約なら、片付ける範囲はここで縮む
片付けが最後に来るのは、片付けが軽いからではない。前の6つが決まると、片付ける範囲そのものが変わるから。工程全体と費用の内訳は実家じまいとは?進め方と費用の全体像を7ステップで解説にまとめている。
順番を守っても残る費用と、先に確認できる数字
順番を直しても費用は消えない。ただ、確認できる数字は先に確認できる。
解体費用を一点で見積もらない
解体費は建物の構造(木造・鉄骨・鉄筋コンクリート)、延床面積、前面道路の幅と重機の入りやすさ、付帯工事の量で動く。同じ延床でも重機が入らない現場は人力作業が増える。ネット上の一点の相場を信じるより、条件を書き出して同じ条件で2〜3社に出させたほうが早く幅が掴める。
補助金の額は自治体で桁が違う
- 秋田市:老朽危険空き家解体撤去補助金、上限50万円
- 名古屋市:老朽危険空家等除却費補助金、評価75点以上で工事費の3分の1(最大40万円)、125点以上で3分の2(最大80万円)
- つくばみらい市:特定空家等・不良住宅は上限30万円、老朽空家は上限15万円
いずれも2026年7月31日時点の各市公式ページ。昭和56年5月31日以前の建築であることや、危険度の判定を条件にする例が多く、判定に1か月から2か月かかるとしている自治体もある(つくばみらい市)。年度ごとに募集と要件が変わるため、実家のある自治体名と空き家・解体・補助で公式ページを直接見る。
売れないときの最後の出口
相続した土地を国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度がある。審査手数料は土地一筆あたり14,000円で、却下・不承認でも返還されない。建物がある土地、担保権や使用収益権が設定されている土地、境界が明らかでない土地は申請の段階で却下される。承認された場合は、国有地の種目ごとに10年分の標準的な管理費用を考慮して算定した負担金を納める(法務省)。建物が建ったままでは使えないため、解体の判断とセットで検討する制度になる。
どこまで自分で決めて、どこから渡すか
実家じまいで詰まるのは、判断が要る場所と、聞けば済む場所が混ざっているから。編集部は士業ではないので、要件に当たるかどうかの判断はしない。渡す先だけ整理しておく。
| 迷っている内容 | 渡す先 |
|---|---|
| 相続登記、相続人申告登記、共有持分の整理 | 司法書士 |
| 3,000万円控除や取得費加算が使えるか、税額の計算 | 税理士 |
| 相続放棄の可否、家財の処分が処分行為に当たるか、分割の争い | 弁護士、家庭裁判所 |
| 売却価格の幅、現況で売るか更地で売るか | 複数の不動産会社 |
| 解体補助金、特定空家等・管理不全空家等の指定、ごみの出し方 | 実家のある市区町村の担当課 |
自治体へ先に電話するのが安い理由は、補助制度の有無と申請の順番が、そのまま工事の順番を決めてしまうから。
よくある質問
親が元気なうちに片付けを進めてもいい?
片付けは進められるが、家は親名義のまま。売却の手続きは所有者本人の意思で行うため、判断能力が下がってからでは動かせる範囲が狭くなる。物より先に、どうしたいかの方針を共有しておく。進め方は実家の片付けが進まないときの順番|親が生きている場合にまとめている。
兄弟で共有名義にすれば公平では?
売却も解体も全員の同意が必要になり、1人でも動かないと止まる。共有者に相続が発生すると権利者がさらに増える。公平さは持分ではなく、売却代金の分け方で調整したほうが後の手続きが軽い。
相続登記をしないまま売れる?
買主へ所有権を移す登記ができないため、実務上は先に相続登記が要る。申請義務の3年も並行して進んでいる。
更地にしてから売ったほうが高い?
令和6年1月1日以後の譲渡では、譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに取壊しや耐震改修が行われた場合も3,000万円特別控除の対象になる(国税庁 No.3306)。自費で先に壊す前提は崩れているので、現況渡しの想定価格も出させて比べる。
ずっと空き家のまま持っていたら?
管理不全空家等として勧告を受けると住宅用地特例が外れ、固定資産税と都市計画税の負担が上がる。保有し続ける判断そのものは否定されないが、管理の実態が伴わないと費用側で跳ね返る。
