実家を売る前の近所への挨拶|伝える範囲と文例

実家を売るとき、近所にどこまで伝えるべきか迷う人は多い。
結論として、挨拶は一度ではなく、境界の確認前、解体の着工前、引き渡し前の三回に分けると迷いが消える。範囲は両隣と向かい、裏を足した五軒から八軒が目安で、解体があるなら着工の七日前が実質的な期限になる。
この記事の目次
挨拶が要る場面は3つに分かれる
実家の売却で近所に挨拶する場面は、時期も相手も伝える内容も違う三つに分かれる。まとめて一度で済ませようとすると、工事の説明だけが抜け落ちて苦情になりやすい。
| 場面 | 時期の目安 | 伝える相手 | 伝えること |
|---|---|---|---|
| 査定・測量の前 | 立会いの依頼が出た時点 | 境界を接する家 | 後日、測量の立会いをお願いする可能性 |
| 解体・残置物の搬出の前 | 着工の7日前まで | 影響が出る範囲と搬出経路沿い | 工期、作業時間帯、工事の連絡先 |
| 引き渡し・退去のとき | 引き渡し日が確定してから | 付き合いのあった家 | これまでの礼と、今後の窓口 |
多くの人が思い浮かべるのは三つ目の退去の挨拶だが、実際に苦情が出るのは二つ目の工事の場面で、手続きそのものが止まりやすいのは一つ目の境界の場面になる。優先順位が逆になっていることが多い。
伝える範囲はどこまでか
一戸建ての基本は向こう三軒両隣。自分の家の両隣と、道路を挟んだ向かいの三軒を指す。裏に家があれば裏の一軒も含め、合計で五軒から八軒に収まることが多い(アットホームの引っ越し挨拶の解説、2026年7月31日確認)。
実家の売却では、この基本形に次の三つで足し引きする。
- 付き合いの濃さ:親が世話になっていた家、鍵を預けていた家、庭の手入れを頼んでいた家は、距離に関係なく入れる
- 工事の影響:解体や残置物の搬出があるなら、振動と粉じんが届く範囲、トラックが停まる位置、搬出経路沿いの家まで広げる
- 境界を接するか:塀や生垣や擁壁を共有している家、越境した枝や樋がある家は必ず入れる
自治会や町内会があるなら、会長宅にも一声かけておくと、回覧板とごみ当番の引き継ぎがその場で片づく。マンションなら上下左右の四戸と、管理組合または管理人が基準になる。
いつ伝えるか(解体があるなら期限は法令で決まる)
退去や引き渡しの挨拶そのものに法的な期限はない。一方で解体を伴う場合は、手続きの期限が挨拶の期限を実質的に決める。以下は2026年7月31日時点で確認した内容で、制度は年度で変わる。
- 建設リサイクル法:建築物の解体で床面積の合計が80平方メートル以上なら、工事に着手する日の7日前までに分別解体等の計画を届け出る。届出の義務を負うのは施工業者ではなく発注者または自主施工者で、実家を売る側が名義人になる(千葉市の案内)
- 騒音規制法・振動規制法:指定地域内で特定建設作業を行うときは、作業開始の7日前までに区市町村の窓口へ届出(東京都環境局)
- 騒音の基準:敷地の境界線において85デシベルを超えないこと、第一号区域では午後7時から翌日の午前7時までは行わないこと、一日の作業は10時間以内、連続6日を超えないこと、日曜その他の休日は行わないことが環境大臣の定める基準(環境省告示)
ここで取り違えやすいのは、これらが行政への届出であって、近隣への説明の代わりにはならないという点。さらに自治体によっては、近隣説明そのものが要綱で求められる。東京都大田区では、床面積80平方メートル以上の解体について、着手日の7日前までに標識を道路に面して設置し、近隣関係住民に工事期間や搬出経路などを説明したうえで、着手の3日前までに事前周知報告書を提出する運用になっている。
実家のある市区町村に同種の要綱があるかは、解体業者に確認するのが早い。訪問の時間帯は、平日なら夕方、休日なら午前中が在宅率が高い。一軒あたり三分から五分で切り上げる。
何を伝え、何を言わないか
玄関先で話す内容は四つで足りる。長くなるほど相手の負担になる。
- 名乗り(この家の◯◯の息子、娘、という言い方でよい)
- 家の今後(売却する、解体する、時期の見込み)
- 影響の範囲と期間(工事があるなら日程と作業時間帯)
- 連絡先(何かあったら誰に言えばよいか)
逆に、聞かれても答えを保留したほうがよいものがある。
- 査定額と売出価格:隣接地の所有者は買主候補にもなり得る。価格を先に伝えると、そのまま交渉の起点になる
- 買主の情報:決まっていても、家族構成や職業を近所に流さない
- 確定前の引き渡し日:日程が動くと、約束違反として記憶される
- 相続の内輪の事情:誰が何を相続したか、話がまとまっているかどうかは伝えない
そのまま使える文例
短い版(工事がなく、引き渡しだけの場合)
「◯◯の長男の◯◯です。ご無沙汰しております。このたび、実家を手放すことになりました。長い間、父(母)がお世話になりました。」
標準版(売却が決まった段階)
「◯◯の◯◯です。このたび家の都合で、実家を売却することになりました。◯月ごろに引き渡しの予定です。ご迷惑をおかけすることがあるかもしれません。何かありましたら、こちらにご連絡ください。長い間ありがとうございました。」
解体の前(工事の説明を足す)
「◯月◯日から◯月◯日ごろまで、解体工事が入ります。作業は平日の午前8時から午後5時ごろまでで、日曜は行いません。音と埃でご迷惑をおかけします。工事についてのご連絡は、施工会社の◯◯(電話◯◯)へお願いします。私の連絡先は◯◯です。」
留守だったときの置き手紙
「突然のお手紙で失礼いたします。◯丁目◯番の◯◯の長男の◯◯と申します。このたび、実家を◯月末で引き払うことになりました。ご挨拶に伺いましたがお留守でしたので、書面にて失礼いたします。長い間お世話になりました。ご連絡が必要な際は下記までお願いいたします。(電話番号)」
境界の立会いをお願いするとき
「売却の準備で土地の測量をすることになりました。境界の確認で、後日、土地家屋調査士から立会いのお願いのご連絡が行くと思います。お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。」
親戚や関係者への伝え方まで含めた文面は実家じまいの挨拶文テンプレート|親戚と近所への例文にまとめている。
手土産とのしの扱い
不動産情報サイトの解説では、引っ越しの挨拶品は一軒あたり500円から1,000円程度が目安とされる(アットホーム、2026年7月31日確認)。実家の売却でも、この幅から外れないほうがよい。高いものは、相手に返礼の負担を感じさせる。
- 選ぶもの:タオル、洗剤、ラップなどの消耗品、個包装の焼き菓子、日持ちする飲み物
- 避けるもの:生もの、日持ちしないもの、好みが分かれる置物、量が多くて処理に困るもの
- のし:表書きは御挨拶、水引は紅白の蝶結び、名前は名字のみ
不在が続く家には、品物を玄関先に置いてこない。食品なら特に、置き手紙だけを入れて、後日渡すか、渡さずに手紙で締めるほうが角が立たない。訪問は時間帯を変えて二回まで、それで会えなければ手紙に切り替える、と先に決めておくと足を運ぶ回数が増えない。
境界と越境は、玄関先で決めない
挨拶の場でいちばん危ないのは、境界の話が雑談のまま合意めいた形になること。土地の境目には二種類ある。法務省の説明では、筆界は土地が登記された際にその範囲を区画するものとして定められた線で、筆界特定はこれを新たに決めるのではなく、もともとの筆界を筆界特定登記官が明らかにする手続きとされる。筆界は所有権の範囲と一致することが多いが、一致しないこともある(法務省「筆界特定制度」、2026年7月31日確認)。玄関先の会話で動かせるものではない。
越境した枝も、2023年(令和5年)4月1日施行の改正民法233条で扱いが変わった。原則は竹木の所有者に切除させることで、所有者に催告しても相当の期間内に切除しないとき、所有者やその所在が分からないとき、急迫の事情があるときに限り、越境された側が自ら切り取れる。相当の期間はおおむね二週間程度とされ、枝を切るために隣地を使う場合は、目的、日時、場所、方法をあらかじめ通知する(改正民法209条。横浜市の解説、2026年7月31日確認)。
だから挨拶では、境界の確認と越境物について、後日あらためてお願いすると予告するところまでに留める。合意の形にするのは、土地家屋調査士や仲介会社を通した書面のほう。編集部は士業ではないため、個別の境界の判断や登記の可否には踏み込まない。境界標が見当たらない、越境が長く続いている、相手が立会いに応じない、といった状況は土地家屋調査士か司法書士に確認する範囲になる。
誰も住んでいない実家と、名義の問題
すでに空き家になっている実家では、挨拶の中身が変わる。近所が知りたいのは思い出話ではなく、誰に何を言えばよいか、だから。
- 連絡先を一本化する。相続人が複数いても、窓口は一人に決めて、その人の番号だけを伝える
- 個人の携帯番号を出したくないなら、仲介会社や解体業者の担当者名と電話を書いた紙を渡す。ただし工事が終わると連絡先が切れるため、その旨も書き添える
- 草木の張り出し、郵便物の滞留、庭からの落ち葉など、すでに迷惑をかけている項目があれば先に謝る。挨拶より苦情の解消が先に立つ
名義の確認も先に済ませておく。相続登記は2024年(令和6年)4月1日から申請が義務化され、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請することとされた(法務省、2026年7月31日確認)。名義が親のままだと売却の手続きが進まないうえ、今は誰の家なのかと問われたときの答えが濁る。売却の全体の流れは実家を売る手順と相場の調べ方|更地と現状の比較で確認できる。
挨拶しない、という判断が成立する場合
すべての実家で訪問が必要なわけではない。次の状況では、回らないほうが結果として静かに終わる。
- 親の代から付き合いがなく、顔も知られていない
- 過去にトラブルがあり、訪問そのものが刺激になる相手がいる
- 遠方で、工事も発生せず、現状のまま引き渡す
この場合でも、工事があるなら説明は省かない。訪問の代わりに、工期と連絡先を書いた案内文をポストへ入れ、投函した日付を控えておく。近隣説明の有無が後から問題になったとき、記録が残っているかどうかで話が変わる。
編集部の立場
編集部は沖縄の傾斜地を相続し、売却、寄付、国庫帰属と出口を順に検証したが、どれも成立せず、現在も保有したままでいる。固定資産税は年およそ7万円が出ていく。この過程で分かったのは、土地を手放す作業が書類と現地の二本立てで動くこと。書類の側は専門家に任せられるが、現地の側の窓口は近所の人になる。挨拶を気持ちの問題として最後に回すと、工事や測量の日程に間に合わない。引き渡しの後に残る作業と、よくある質問
挨拶で終わりではなく、事務の締めが残る。
- 自治会や町内会の退会、会費の精算、回覧板とごみ当番の引き継ぎ
- ごみ集積所の場所と当番の順番を、買主または仲介会社に伝える
- 境界標の位置、越境物の状況、共有の塀があればその経緯を書面で引き継ぐ
- 合鍵を預けていた家があれば回収する。庭の水栓や物置の鍵も同じ
- 郵便の転送手続きと、実家宛の定期便の停止
よくある質問
売却が決まる前に伝えてよいか。測量や片づけが先に走るなら、その時点で伝える必要がある。内容を、売る、ではなく、片づけと測量に入る、に留めれば価格の話にはならない。
一度に全戸を回りきれないときは。境界を接する家と、工事の影響が大きい家を先に回る。残りは後日でも遅くない。
買主から挨拶を頼まれたら。売主が買主の代わりに近所を回る義務はない。入居時の挨拶は買主の役目で、売主が渡すのは、ごみ当番や自治会といった地域の情報までになる。
