墓地は売れる?永代使用権が返還になる仕組み

墓じまいを調べ始めて、あの区画は売れないのかと考えるのは自然なことです。
結論を先に置きます。寺院墓地や霊園の区画は売れません。買っていたのは土地ではなく永代使用権で、出口は返還だけです。ただし条例に還付規定を置く自治体は実在し、未使用なら既納使用料の2分の1から10分の6が戻る例があります。
この記事の目次
売れないのは、買ったのが土地ではないから
お墓を建てるときに支払った永代使用料は、区画を買った代金ではありません。墓地、埋葬等に関する法律は墓地を「墳墓を設けるために、墓地として都道府県知事の許可を受けた区域」と定めています(第2条第5項)。その区域を経営できるのは、同法第10条第1項の許可を受けた宗教法人や自治体などに限られます。使用者の手元にあるのは、その区域の一角を墓所として使い続ける権利だけです。
権利である以上、契約書や条例で処分の仕方が縛られます。東京都霊園条例は第17条で「使用者は、埋蔵施設、収蔵施設又は式場を他の者に貸し、又はその使用する権利を他の者に譲渡してはならない」と定めています。民営霊園や寺院墓地の使用規則にも、ほぼ例外なく同じ趣旨の譲渡禁止条項が入っています。
行政の相談窓口でも同じ回答が出ています。生駒市消費生活センターは、30年前に霊園で墓地を取得した70代女性からの売却したいという相談に対し、永代使用権は子孫へ承継できるが第三者へ転貸・転売はできない、返還しても購入費用は戻らない、と回答した事例を公開しています(2023年7月7日掲載)。東京都消費生活総合センターも、墓地は所有するものではないため売ることも貸すこともできないとしています。
それでも売れる墓地はある(個人墓地・みなし墓地)
例外は、区画の土地そのものを自分の側が所有しているお墓です。自宅の敷地や田畑の隅にある古いお墓、いわゆる個人墓地やみなし墓地がこれにあたります。この場合は登記簿上の所有者が自分または一族なので、返還義務は発生せず、更地にしたあとの土地は手元に残ります。
ただし、残ることと売れることは別です。越えるべきものが3つあります。
- 墓地の廃止許可。墓地の区域を変更したり廃止したりするには、経営と同じく都道府県知事等の許可が必要です(墓地、埋葬等に関する法律第10条第2項)。手続きを踏まずに宅地として売り出すことはできません。
- 地目と境界。登記の地目が墓地のままだと用途が限られます。長く測量していない土地では、境界の確定に時間と費用がかかります。
- 買い手の心理。遺骨と墓石が残った状態で売買が成立することはまずありません。改葬と撤去を先に終える必要があります。
自分のお墓がどちらなのかは、永代使用許可証(墓地使用許可証)や契約書があるかどうかで、ほぼ判別できます。書類が見つからないときは、管理者に土地の所有者は誰かを確認するのが早い手順です。登記簿謄本を取れば、所有者が自分側かどうかは確定します。
売れない区画の出口は「返還」しかない
返還とは、更地に戻して使用権を管理者に返すことです。東京都霊園条例第16条は、使用しなくなったときは直ちに知事に届け出るとともに、当該施設を原状に回復しなければならないと定めています。届出と原状回復がセットになっているのが要点です。
返還が成立すると、翌年度以降の管理料が止まります。これが返還で得られる、金額として最も確実な効果です。逆に、返さないまま連絡が取れなくなっても権利は自然消滅しません。東京都公園協会は、都立霊園で年間管理料を5年以上滞納すると使用許可の取消対象となり、行政手続きを経て東京都が墓所を更地にし、遺骨は無縁塚に改葬されると案内しています。東京都霊園条例第21条にも、管理料の5年間未納が取消事由として並んでいます。
返還を選ぶ人は増え続けています。厚生労働省の衛生行政報告例(第4章生活衛生・第6表)で集計される全国の改葬件数は、2023年度が16万6,886件、2024年度が17万6,105件でした。うち無縁墳墓等の改葬は2024年度で3,006件です。改葬許可は原則として遺骨1体ごとに出るため、墓じまいをしたお墓の数とは一致しませんが、公的統計としては最も近い数字になります。
返還を含めた全体の流れは 墓じまいとは?費用と流れ、遺骨の行き先の決め方 で扱っています。
返還料は出るのか。条例に還付を書いている自治体は実在する
永代使用料は一切戻らない、と書かれた解説をよく見かけますが、正確ではありません。原則は還付なし、例外は条例に書いてある、という構造です。以下は2026年7月31日時点で各自治体が公開している規定です。
| 墓地 | 使用料の還付についての定め |
|---|---|
| 東京都(都立霊園) | 既納の使用料及び管理料は還付しない。ただし知事が相当の理由があると認めるときは、全部又は一部を還付できる(東京都霊園条例第15条) |
| 岡山市(規則で定める7墓地) | 未使用で返還する場合、既納使用料の2分の1を還付。管理料は年度未到来分を還付。未使用とは遺骨を埋蔵せず原型のまま返還するもの |
| 明石市(石ケ谷墓園 一般墓地) | 使用許可後5年以内の返還であれば、既納の使用料及び管理料の半額を還付 |
| 大和高田市(市営墓地) | 返還した場合、未使用なら既納使用料の10分の6、使用済みなら10分の2を還付(大和高田市営墓地条例第14条) |
| 広島市(市営墓地) | 既納の使用料は原則として還付しない。市の都合で返還させたときは代替地・補償料または使用料の全部若しくは一部を還付(広島市墓地及び納骨堂条例) |
ここから読み取れることが3つあります。第一に、還付規定があるのは条例を持つ公営墓地に偏っています。第二に、還付の条件は未使用か、取得から一定年数以内かに集中しています。第三に、寺院墓地と民営霊園では原則ゼロと見ておくと外れが少なく、生駒市の相談事例でも霊園側の回答は無償返還でした。
還付は自動では出ません。明石市は返還届とは別に還付の案内を行うとし、横須賀市は公園墓地墓所使用料等還付申請書を返還時の提出書類に挙げています。返還届だけ出して終わると、戻るはずの分が戻らないことがあります。
戻る額より、出ていく額のほうが大きい
還付が出る墓地でも、返還までに出ていく額のほうが大きくなるのが普通です。内訳は3つに分かれます。
- 墓石の解体・撤去と整地。石材店や墓じまい事業者の公開情報では、1平方メートルあたり7万〜15万円程度、区画全体で30万〜50万円程度が目安として示されています(2026年7月31日確認)。重機が入らない山中や階段の上の区画では割増になります。
- 閉眼供養のお布施。1万〜5万円程度が目安とされています。
- 離檀料。寺院墓地では5万〜20万円程度が目安として挙げられますが、寺院との関係や地域差が大きく、この幅の外に出ることもあります。
面積と立地で撤去費が動く仕組みは 墓石の撤去費用の相場|面積と立地で変わる理由、寺院からの請求額に納得できないときの考え方は 離檀料はいくら払う?相場と高額請求されたときの対処 で扱っています。
注意したいのは、還付が出るかどうかより、工事見積りの差のほうが金額として大きいことです。同じ区画でも施工会社によって数十万円動きます。還付の確認と見積りの取得は、順番を待たずに並行して進めるほうが早く終わります。
撤去費用は複数社に出させてから判断する
区画の面積と立地を伝えれば、条件をそろえた見積りを比べられます。還付の有無を管理者に確認するのと並行して、出ていく側の金額を先に押さえておくと判断が早くなります。
無料で墓じまいの費用を比べる墓石を建てていない未使用区画の返し方
墓石をまだ建てていない区画は、扱いがはっきり軽くなります。解体工事が不要なので、返還届と使用許可証の提出だけで手続きが完結する墓地が多く、還付規定がある場合に条件を満たしやすいのもこの状態です。岡山市の2分の1も、大和高田市の10分の6も、いずれも未使用が条件になっています。
一方で、未使用でも戻らないと明言されている墓地は珍しくありません。東京都消費生活総合センターは、墓地を解約して権利を返還しても永代使用料は戻らないのが普通と説明しています。契約時に受け取った使用規則を読み、還付の条項があるかどうかを先に確かめる順序になります。
親が生前に取得したまま使っていない区画が、あとから出てくるケースもあります。使用許可証が見つからない場合は、多くの墓地で再発行の手続きが用意されています。管理料の領収書や口座振替の通知が、名義をたどる手がかりになります。
墓石そのものは売れるのか
区画とは別に、墓石だけでも売れないかという相談があります。彫刻の入った既存の墓石を買い取る石材店は一般的ではありません。故人名や家名が刻まれた石材には転用先がなく、運搬と加工の費用が石そのものの価値を上回るためです。撤去した墓石は産業廃棄物として処理されるのが通常で、その処分費は撤去見積りに含まれています。
石材を残したいのであれば、売却ではなく手元供養に振り向けるほうが現実的です。竿石の一部を小さく加工して残す、文字の入った面だけを保管するといった対応に応じる事業者があります。見積りの段階で希望を伝えないと、処分が先に進みます。
手続きの順番を間違えない
返還と改葬は、順番を誤ると工事のやり直しになります。遺骨を動かすには市町村長の改葬許可が必要で、墓地、埋葬等に関する法律第5条第1項が根拠です。許可が出る前に遺骨を取り出すことはできません。
- 親族と管理者に墓じまいの意向を伝える
- 遺骨の移転先を決め、受入証明書を用意する
- 現在の墓地から埋蔵証明を受ける
- お墓のある市区町村に改葬許可を申請し、改葬許可証を受け取る
- 閉眼供養を行い、遺骨を取り出す
- 墓石を解体し、区画を更地に戻す
- 返還届と使用許可証を提出し、還付規定があれば還付申請も出す
書類の名称と様式は自治体や墓地ごとに違います。返還届は霊園や寺院の書式、改葬許可申請は市区町村の書式です。この2つを混同すると窓口を往復することになります。
税金はどう扱われるか
お金の扱いで押さえておきたい点を、税務判断に踏み込まない範囲で整理します。編集部は士業ではないため、個別の税額計算や申告の可否は税理士に確認する範囲です。
- 固定資産税。地方税法第348条第2項第4号は、墓地を固定資産税の非課税として掲げています。個人墓地であっても、墓地として使われている限りは課税されない仕組みです。廃止して用途を変えたあとの扱いは、市町村の資産税担当に確認する内容になります。
- 相続税。国税庁のタックスアンサーNo.4108は、墓地や墓石、仏壇、仏具など日常礼拝している物を相続税の非課税財産としています(令和7年4月1日現在法令等)。骨とう的価値のあるものや投資対象になるものは対象外とされています。
- 売却したとき。個人墓地の土地を廃止手続きのうえ売った場合の課税関係は、取得費や用途で結論が変わります。契約前に税理士に当たる範囲です。
制度は年度で変わります。ここに挙げた内容は、2026年7月31日時点で各公式ページを確認したものです。
管理者に聞くことを6つに絞る
問い合わせる内容を先に決めておくと、電話1回で判断材料がそろいます。
- この区画の土地の所有者は誰か(管理者か、自分の側か)
- 使用規則または条例に、返還時の使用料の還付規定はあるか
- 還付があるとして、条件は未使用か、取得からの年数か
- 還付申請の書式は別にあるか、返還届だけでよいか
- 原状回復の範囲はどこまでか(外柵、敷石、植栽、境界の石)
- 指定石材店の制度はあるか、他社に工事を出せるか
6番目は費用に直結します。指定業者制の墓地では相見積りが取れず、金額の交渉余地が小さくなります。指定がなければ、複数社の見積りで差が出ます。
よくある質問
知人に譲ることはできますか
使用規則に譲渡禁止条項がある墓地ではできません。都立霊園のように条例で明文化されている例もあります(東京都霊園条例第17条)。無断で譲渡すると、使用許可の取消事由になります。
親族への名義変更ならできますか
承継としてなら可能な墓地が大半です。ただし対象となる続柄の範囲、必要書類、手数料は墓地ごとに違います。承継と譲渡の線引きは管理者の判断になるため、事前に確認する内容です。
更地にしないまま返せますか
原則は原状回復してからの返還です。ただし、市長の承認を受けたときは現状のまま返還できると定めている自治体もあります(真庭市墓地条例第16条ただし書き)。石が残っていても引き取る扱いがあるかどうかは、確認する価値があります。
そのまま放置したらどうなりますか
管理料の滞納が続くと使用許可の取消手続きが進み、最終的に管理者が更地にして遺骨を合祀します。都立霊園では5年以上の滞納が取消対象です。費用がかからないように見えて、いつどう供養するかを決める権利を手放すことになります。
